無題(13/13)
開かれた錆びた鉄の扉の奥に、一見普通の部屋。
すこし埃をかぶっているけど、元の俺の世界よりぜんぜん広くて豪華な部屋だ。
じゃあな。と眠たそうに欠伸して、右も左もわからない俺を放置しどこかへ行こうとするフィンクスに「ありがとう」と言う。
横目でこちらをみて、鼻で笑うとひらひら手を振られた。
んだあいつ、気取りやがって。
べつにイラついたわけではなく、ただ文句言いたくて心で悪態をつく。
ゆっくり部屋に入ると軋んだ床と、舞う埃。
片付けなくちゃ……と思う反面、もう疲れすぎてどうでもいい。ベッドの上の掛け布団をはぐり、埃のない部分に身体を横たえる。
「ワラより全然、いい……」
牢屋にいる間、ろくに眠れなかったのもあって一瞬で意識を手放した。
すり…
なにか温かいものに擦り寄られてる感覚。
頭に擦り寄るそいつを手繰り寄せ、暖を求めて抱きしめる。
さらさらな触り心地が気持ちよくて手を滑らせると、がぶり。噛まれて目がさめた。
「はっ……あ、痛……」
のどを噛まれるなんてびっくり。
とはいえ、手加減してくれたのか前に腕を噛んだような鋭利な歯は肌に食い込んでなかった。
ごめんなさい離してください。
そう言うとスッとくちばしを離す黒い鳥。たしか、リズ?
「なんでここに…ここどこだっけ」
ああ、魔王の城。
見慣れない天井を仰いで、大の字に広がる。
右横にちょこんといるリズを見ると、向こうもこっちを見つめていた。
人の言葉は理解できるのに喋ることはできないのか。
「おお、起きたのか」
足音もなく俺の目の前に出てきたのは、飼い主の少年。
なんだ、少年もここの住人なのか。どおりで不思議な力があるわけだ。
重たい身体を起こして、おはよと少年に言うと。キョトンと目を瞬かせてから可笑しそうに笑った。
「おはようナツメ」
綺麗な笑顔は、太陽のないここでも光のように煌びやかで眩しさに目を細める。
リズがふわりと飛んで少年の腕に乗り、少年があたりまえのように受け止めて俺の隣に座った。
小学生くらいだろうか?
人間でそれくらいだけど実はすごいお年を召してるとか?
「名前……キズキだっけ」
なんとなくロビンが黒い鳥のネームプレートの名前を口にした時のことを思い出した。
少年は驚いたようにしたから、鳥の首元を指さすと ああ…と頷く。そしてリズにがぶり噛まれた。
「こ〜ら〜」
リズに噛まれた人差し指を上下にうごかすと、不味かったのか吐き出すように捨てられる。
こいつ……俺のこと好きなのか嫌いなのかわからない。
「ふ、お前ら二人とも可愛いなあ」
いや一番可愛いのはあんたですけど。
ショタコンでは断じてないのだが、すべすべの子供肌に小柄な体型。濡れたような真っ黒な髪に小さな顔。無邪気に笑う表情は幼さをさらに強調して、加護欲をそそられるというか。弟が居たら、こんな感じだろうな。
さらり、髪をなでるように頭をなでると、また少し驚いてからくすぐったそうに笑う。
「今日からよろしくな、ナツメ」
「こちらこそキズキ」
(キズキが魔王様だと知る一時間前)
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