無題(11/13)
その日は朝から陽の光に反射する朝露が綺麗で
お城ではいつも通りの穏やかな空気が、のんびりと流れていた
ぼっかーん。
字で表すとあまりに凄みも威力もない爆発音が、どこかで響き
わー。休憩時間に校庭に走りだす子供たちのように、牢人たちが城の外に走りだした。
「ひいい、何で飛んでんの!?なんで俺も脱獄してんの!?とゆか地下牢木端微塵じゃんか!!」
「うるせえな」
「ち、血が、血が止まりませんドクタァァァ」
「お前がさっさと治せつってんだよ!!」
うなずいてしまった。
俺はどうしてもあの状況で首を振れなくて、頷いてしまった。
そしたらなんてことか、心の準備もろくにさせずに隠していたのか鉄パイプで、じぶんの手首から下を砕き始めたのだ。ぐろい、ぐろすぎる。
ぱきばき、めりぃ、ぐちゅう。失神するかと思うほど悲惨な音劇
なるほど脱臼して縄抜けするように、手の形をなくして、ワンドを抜けるようにするのか。
しばらくして音が止んだと思ったら、カラーン金属が床におちる音がして。
次の瞬間には大きな爆発が起こっていた。ぼっかーん。
なにがなにやら。
ついていけず座り込んでいたら、激しい砂ぼこり。
それに混じった破片にすり傷を増やされるし、あ痛い!なんか頭に瓦礫刺さったんだけど。死んじゃう!
頭を押さえながら座り込んでいた俺を、誰かが軽々と持ち上げる。
「なにちんたらしてんだよ!」
「田中!」
「たなかじゃねえよ!フィンクスだフィンクス」
なにそれ名前なの?初めて聞いた。
瓦礫を思い切って抜くと、目の前にたらり血が流れてくる。
それをみてフィンクス?だかは舌打ちして俵担ぎすると、見たこともない羽で空に飛び上がった。
久しぶりに浴びる陽の光がまぶしかったけど、俵担ぎされた俺の目の前にある羽に釘づけだ。
鳥でもなく、ロボット的なのでもなく、丈夫な皮のように生々しい。血管の通っている真っ黒な羽。悪魔の羽ってこういう感じなんだろうか。
「おい、腕早く治せよ」
「…腕って言うか手だよな、あー…触らねえと治せないんだけど」
そういうと面倒くさそうに小言を言いながら、俺をお姫様抱っこした。
手がぐちゃぐちゃになっている方の腕を、おれの膝下に回しているから確かに治療はしやすいけど。あーなんていうか、嫌だなあ。
「ぐろ…手、触りまーす」
「痛いっつってんだろマジ早くしろ」
原型を留めてない手は、ただの肉と小骨の塊でぶよぶよだ。
吐きそうになるその触感に耐えながら、目を逸らして両手で包み込む。
宙に浮いてるこの感覚も慣れないし、お姫様抱っこも不本意だし、目の前に垂れてた血は固まってぱりぱりしてるし、良いことがない。
だいいち俺は脱獄しないと言ったのに、結局地下牢粉砕して俺を連れ出してたらこれは列記とした脱獄。
まあそりゃ、俺を連れてこなきゃ、あの場で治癒しろってほうが無理があったけど
でも最初っから考えればわかるだろ、こういう脱獄の仕方するなら俺を連れて行くことになるって。
わかって、た……?
そう結論に至った俺は、ゆっくりそいつの顔を見上げる。
汚いぼさぼさな髪の毛で目元が隠れていてやっぱりどこ見ているかわからない、でも前を向いていて。行先は決まっているようにただ真っ直ぐ飛んでいた。
「……」
手はだんだんと元の形に戻ってきて、俺はだんだんと変な脂汗がでてきて。
ここまで酷いと案外体力?と、いうか気力を使うことになるんだと認識した。あとこんな怪我でも治るんだなとか、思ったより驚かない自分がいる。
「お前、自分の怪我治るのも早いのな」
フィンクスが俺の頭を見ながらそう言う。
そうだよ、としか答えがでなくて面白味もないから、なんとなくただ頷いた。
それこそ面白くなかったようで、フィンクスは鼻を鳴らすようにふんと言うと話しかけてこなくなった。
どこへ向かってるんだろう
だんだん嫌な予感がしてきたのは、あの魔物の巣窟。もとい魔王の城の方へと近づいてきているからで。そういえばこいつ、魔王様直伝の魔力うんぬん言ってたな、あれ本当なのか。
本当だったら、これは、やばいんじゃ
きっと治っただろう手を放すと、フィンクスは確かめるように握ったり開いたり確認して「おお」と少し感心した声を溢す。
俺は動いてもないのに声も出ない程、疲れていた。
そして、到着。魔王のお城。
「……っとと、」
大きなお城の何階にあたるか知らないが、窓のない廊下へ着地する。
すぐに下ろされたので二本足で立った瞬間、ふらついて膝をついてしまった。両膝強打、おれのHPは限界の1だったので、いまので瀕死だ。
「何やってんだよ、しっかり立てよ」
「治癒には体力が…」
「は?そうなのか」
ならしかたないな、とでも言うように俺をまた俵担ぎする。
まあお姫様だっこより全然マシだからいいか、そう思ってどーもとだけ言っておいた。
もう羽はしまわれていて、背中をみると服は破けていない。あれはどうやって出していたんだろう、背中から直接生えているものじゃないんだろうか。
色々気にはなったが、普通の人間ではないこいつらに疑問を持ったところでそういう生き物だからと終わるのが目に見えている。何も言わずにただ、ひっそりと疑問を飲み込んだ。
「お前は今日からここに住め、魔王様もネズミ一匹増えたところで何も言わねえだろ」
「はあ」
「んだこるぁ、そのやる気のねえ返事は」
んだこるぁ、人のことネズミ扱いしやがってこるぁ。
しおり