無題(8/13)
朝、それは唐突に訪れた
「城に来い」
歩くたびに金属音のする装備を纏った、あの門番が三人。
あの門番とは別人かもしれない、同じかもしれない。とゆか命令されてるのは俺?とりあえず後ろを振り向いてみると誰も居なかったので、俺なんだろう。
なんで急に
「王子がお呼びだ」
これがロビンとのお別れになるとはつゆしらず、はあと適当な返事をして俺は家をでた。
ロビンには一言も告げなかったうえに食べかけのプレリュは投げっぱなし、借りていた本は途中で飽きてドミノのように十数冊並べたまま。せめてあれを倒してから城に行けば良かったと思ったところで、俺に選択権なんてないわけで
「君には今日から兵たちと訓練に出てもらう」
はあ、適当な返事をする。
ついに俺は戦いに出なくちゃいけなくなったのか、そう納得しかけていると命令をくだした王子は呆れた顔をして足を組んだ。
「なにか他に言葉はないのか」
「ありません」
「顔もつまらなければ話もつまらん」
まさかの罵り。
正直、今は頭の整理が追いつかず例え「晩ご飯なに食べたい」ときかれても「たまねぎ」といった固有名詞しか答えられないだろう。
前回とはちがう奥の部屋に通されてしまった俺は、王子のどでかい仕事部屋のような場所で正座をしていた。王子は大きな机を挟んで豪華な椅子に身体をあずけていて貫禄がある。そんな人にあの時の天使のような態度がとれるとは思わないで欲しいのだが。
「おいボロ雑巾」
「ボロ雑巾。なぜ違う人に同じあだ名で呼ばれたのか」
「お前は治癒の力があるそうだな」
「あれ?華麗なるスルー。ああと…はい、少し、なら」
「きもちわるい」
え。
ぽかんと口を開けて王子を見ていたら、鼻で笑うようにしてペーパーナイフを俺の前に投げやる。
なに今のドヤ顔、イケメンじゃなかったら殴ってた。
「これで自分を切れ」
なんというドS
「そして治してみろ、そうすれば信じよう」
いや別にあんたに信じてもらわなくても俺は困らないんだけど…。
困ったように王子の御付きの人を見れば申し訳なさそうに両手を合わせ、お願いのポーズをとっていた。え、なに、した方が良い感じ?軽いなお前、俺の怪我はそんな軽いもんですまされねえぞ。そう思ってペーパーナイフを手で王子の足元に弾き返すと、王子は目を見開く。
そして御付きの人は、土下座をしていた。
「あ…あんたが俺を傷つければ」
御付きの人がなんか必死過ぎたので、仕方なくそう言う。
まあ自分で傷付けるより人にやってもらった方が怖くないし、王子なら簡単に切りつけそう。そう思って右腕を出して王子をみると、無表情にペーパーナイフを掴んで俺の方に歩いて来た。
そういえばこの人から人に近づくことは珍しいんだったか、とはいえこれは天使の時とは意味が違うからカウントされないか。なんて色々考えているうちに、ヒヤリ冷たい刃が俺の腕に当てられる。
「生意気だな」そう言った王子の目は笑っていなくて、当てられた刃物の怖さもあり俺は目を瞑った。
「……」
「………」
「……」
「……?」
何も起こらない、痛くない、何も言われない。
もしかしてもう切られてて気づかなかったとか、そこまで痛覚が麻痺してたかと目を開くが刃物は当たったまま動いていない。良かった、と安心して良いのかわからないがとりあえず良かった。
「王子……」
心配そうな御付きの人の声に、目の前の王子を見上げるとなんだか顔色が悪い。気がする。元々色白な肌ではあるが、そこに血の気が見られない。なにか持病でもあるのだろうか、ここで再発するとは俺にはタイミングの良い話でしかないのだけれども。
それより腕が疲れてきたので下げようか。として、いやダメだ、と踏ん張るように腕を持ち上げる。それが間違いだった
あ。
その言葉と同時に鋭利なペーパーナイフが俺の腕に食い込み。
王子が反動で手に力を入れたのかピッと赤い亀裂が入る。痛い
「う、うわあああ」
「え!なにどうしよう王子しっかり」
「おろろろろ」
「やめて吐かないで、バケツー大変バケツくださーい」
「これでいいでしょうか」
「こんな高価そうな壺に吐けるなんてさすが王子、格が違う」
おろろろろ、まだ変な吐き方してる王子の背中をさすりながら御付きの人を見る。
申し訳なさそうに両手を合わせてごめんねのポーズをとっていた。お前のバリュエーション少な過ぎやしねえか。
「はあ……はあ……」
「だ、大丈夫ですか王子」
「お前は…牢屋行きだ……」
「ええええ」
口の端から嘔吐物をたらしながらなに言ってんだこいつ。
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