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 無題(6/13)







この世界のあり得ない生き物には慣れたつもりだった。

森でゴブリンとかスライムとかが動いているのを見た時は、本当にRPGだとか感動したし。見たことの無い魔王様に色々思いを馳せたりした。
でもやっぱり強そうなモノを目の前にすると怯む。

治すだけで、何もしないからそんな目で見ないで。


「もう良い頃合じゃろう」


ロビンの言葉を聞いて、癒すことをやめる。

しばし動かなないままの鳥がなかなか口を開けないので、軽くホッペを叩く。


「もう何もしないから、早く帰れ」


まるで俺が虐めてたようだとロビンはいうが、俺もそう思った。

鳥は一度も鳴かずに、こちらをジッとみて口をゆっくり離す。
刺さっていた歯が抜けて行く感覚に、眉をひそめると鳥はまたクチバシを近づけてきた。反射的に避けようとしたが遅く、がぶりと加えられる。う、と小さく呻き声が溢れる。

そんなに腕が美味しかったか

なんて冗談言おうとしたら、湿ってざらついたモノに腕を撫でられる感覚。
なめられてる?心理的な意味ではなく、物理的な意味だ。驚いて反応が遅れたのか今頃になってぞわり鳥肌がたった。


「もういい、くすぐったい」


申し訳ないと思ってした行動かと思うと、自然と笑ってしまう。
頬を滑らせるように撫でて、小さくありがとうとお礼を言ったら静かに口を放してくれた。

ばいばい、そう手を振る俺を鳥は焼き付けるように見て、羽を広げる。
夜に紛れてしまいそうな濃紺の姿が、庭の花々を揺らしながら舞い上がるのはどこかの童話にでもでてきそうなほどに神秘的で

なんとなく元の世界のことを考えてしまった。

もうこの国の生き物をぬいぐるみやロボットだなんて呼ばない、ここは人間以外の生き物がたくさんいる。
それに俺だって人間ではないのだろうし、数ヶ月ここにいれば嫌でも順応してしまう。


「プレリュ食べたいなあ」

「晩御飯要らんのか」

「晩御飯俺も食べて良いの?」


食わせないと言ったら本当にロビンは食わせてくれない。

先日三日間ご飯抜きにされたときはさすがに餓死するいやまてミイラになる、と本気で思っていた。鬼畜にもほどがある机かじってやろうかとしたけど白蟻にはまだなりたくないので我慢した。俺凄い。
まあ街の子達がお菓子たくさんくれたから、良い日にはなったんだけどね








それは鳥を治して数日もしない、
ある日の水撒きの時間だった。


「お前、勇者じゃないのなんで?」


村の子だろう俺より年下の男の子が、いつの間にか庭に立っていた。
庭といってもべつに、誰が出入りするのも自由だ。とはいえ人の家の庭にこんなに堂々と胡座をかいている少年を見たことがない。おにぎり食べてる、なんというピクニック気分。


「ええと、勇者は一人で十分だから」


妥当な切り返しをしたと思う。

俺に魔王を倒す力がないから、
俺に世界の平和を守れる力がないから。

攻撃も守備も長けてないとは勇者になどなれるわけが無い、それが本当の答えだけど。他人相手にそんな卑屈的なことを言ったところで、何にもならない。だったら簡潔にそう述べたほうが、そうだねと同意してもらえる。

「ふーん」面白くなさそうにおにぎりを齧る少年。


「おまえバンカスってそんな水あげていい花じゃないぞ」

「え。でも枯れてるバンカスに朝昼水あげてたら元気になってこの状態だけど」

「それバンカスの偽物?」


おにぎりを最後に大きく頬張って、立ち上がるとわざわざ俺の隣でバンカス観察する少年。
俺はジョウロの水をこぼさないように持ち直し、偽物か本物かもわからない花を同じように眺めた。赤く咲き乱れ、長めの花弁に垂れる雫が丸くなって落ちてゆく。偽物だとしても、綺麗な花


「いや、本物か…」


不思議そうに花を上から下から観て、真正面でうなりをあげる少年はその横顔がとてもじゃないけど子供には見えなかった。
俺よりもずっとずっと上、そんな感じがする。

とかいってそれを口にするわけでもなく、ジョウロの残り水をそこら辺に撒き散らす。

少年も喋り出さないので、しばし無言でいると わさあ、花々が強い風に揺られる音がして生きものの来訪を知らせた。


「あ、リズ」


リズ、そう少年に呼ばれたのはどこか見たことのある鳥だ。
少年が差し出した腕に羽を落ち着かせると、こちらをじっとみてきたので俺も見返す。濃紺の綺麗な毛並み、首につけられたシルバーのアクセサリー。やっぱり見たことある気しかしないのだが、リズと呼ばれた鳥は少年の頭程の大きさしかない。俺より大きくなんてない。


「先日はうちのリズがお世話になったようで」


俺は鳥を治療したことは一度しか無い。

ということは彼の腕に止まるリズがやっぱり先日の鳥、というわけだが。


「大きさ違うくない?」

「ああ、リズは臨機応変に大きさ変えられるぞ。本来の姿じゃあ、大きすぎるからすぐ狙われてしまうし」


何に?敵に?


「まあ今日はお礼をしにきただけなんだけど、どうする」

「え」

「どうしたい?何でも願いを叶えてあげる。こう見えて僕は有能だぜ」


お金持ちになりたいだとか、不老不死、魔力を授けることだって困難では無い。
何が叶えられないと言われるとうまく説明は出来ないけれど、きっと君が一番望むことは叶えてあげられると思う。

勇者になりたいなら、それも有りだし

少年の自信はどこからくるのか、そんな願いを叶えられるのは神様しかいないんじゃないか。
半信半疑ではあるものの、叶えて欲しい願いがたくさんある俺は頭をひねらせてうんうんと悩む。それを見て含みのある笑みを浮かべる少年は、やっぱりどこか子供っ気がない。

悩むのも疲れてきたので、一番最初にぱっと浮かんだ願望にしよう。


「プレリュ食べたい」

「……は」

「俺たぶんあれが一番好き」


まだこの世界の食べ物の大半、知らないと思うけれどあれはいつまでたっても好きだと思う。
前の世界でいうカレーと同じ感じ。三日続けて食べても飽きない、でも高くてロビンにいつもは買ってもらえない。


「いっぱい出せるの?」

「出せるが、うーん。まあいいか」


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