無題(5/13)
住ませんぞ。
そう言った老人は本当に俺を途中の川に捨てて行った。
ああ俺はこのまま流れて桃太郎になるのかなとかおとぎ話を思い出していたら、川に住んでいそうなモンスターをみつけて戦いが始まり腕一本もぎ取られた。
「痛い」
でもやっぱりすぐに生えてくるみたいで、痛くていたくて全力で逃げてるあいだに治っていた。
いつもの身体に安心反面、気持ち悪いとつぶやく。
「ポテがいない」
俺を迎えに来た老人の、最初の一言
どうやら老人がわざわざ俺を迎えに来たのはポテが居ないからだそうだ。
そういえば天使がポテ持ったままだったな。とゆか、いい年して寂しがり屋とは、老人も少しは可愛いところがあるじゃないかと笑う。だがしかし俺を一度捨てたこの怨念忘れるなかれ、帰りにこの国で結構高く売られてるプレリュというものを買ってもらった。
アイスのようで、もちもちしてて甘くて美味しい。満足。
こうして仲良く暮らしはじめた老人と俺
老人の名はロビンというらしい。
さすらいの旅人みたいだと言う俺に、よくわからないという顔を返して来たのでもう言うまい。
そしてご近所付き合いもはじめてみた
ロビンはあまり人が好きでは無いみたいで、近所から無口頑固モンスターを飼っていて怒らせるとそいつで奇襲をかけてくると不評。
まあ、あながち間違ってはいないが、本当は寂しがり屋の悪戯っ子のポテにすら懐かれないかわいそうな老人である。
「へえ、結局お前勇者じゃ無いんだ」
俺たちが落ちてくるのを村人の大半がみていたそうで、俺がロビンの家に住みはじめた日から不躾な視線が刺さってきていた。
今では俺は落ちこぼれと呼ばれ、何故か可愛がられている。
「俺ら王族とか嫌いなんだよね、伝説の勇者とかも信じてねーし」
「そうそう、あんなのどうせ嘘だろ」
「平民からのブーイング抑えるための王族の悪足掻きってね」
「へえ」
ここの人たちは本当にそう思っているのだろうか。
ロビンは平民たちは皆、勇者が現れるのを待っていたと言ってた。
まあ俺からすればそんなんどちらでも構わないんだけど、天使ならもしかしたら魔王を倒せるのかもしれない。なんてあのキラキラ後光を思い出して、ナンプを食べた。
ふわふわして口に入れると溶けるような甘いパン、ここに来てからよく食べる。
「ナツメ」
石の上に座ってみんなで話しているところに、ロビンが来た。
教えたばかりの頃はあまり呼ばなかった名前は、ここ最近よく呼ばれる。それが嬉しくもありどこか心をざわめかせるのだが、何も気づかないふりして石から降りた。
「どうしたのロビン、寂しくなったの」
「晩御飯抜きじゃ。それより、ちょっと手を借りたくてな」
こんな些細なことで晩御飯抜きにされると思わなかった俺はナンプを落としてしまって、泣けた。
また食間にそんなもの食べてお前はとぐちぐち言いながら慰めもしないロビンを追いかけるために、一度村の子たちに手を振ろうと振り返った。
が、誰もすでに居なかった。
「さすがロビン、村一番の口煩い老人」
「あしたの朝飯抜きじゃ」
朝御飯も抜きなんてもう信じられない。
ごめんよーごめんてーごめんあそばせー、とにかく思いを伝えようと記憶の限りをふり絞った謝罪をしていると目的地に着いたらしい。
ロビン宅の庭に咲き乱れるバンカスの花々のとげとげしい香りと、微かな焦げ臭い香り。
「焼き鳥」
庭の真ん中では、大きな鳥が羽を休めていた。
近づくときつい眼光で睨みはするが、その羽は焼け爛れていて動かせそうにもない。少し安心して触ろうとしたら、鋭利なクチバシで頭を突かれた。
「痛いもうだめはげた」
「お主が焼き鳥などと不謹慎なこというからじゃろう」
「え?人の言葉わかるの」
「こいつは賢い」
そうなんだ。
ごめんなさい、そう言って見上げると鋭い眼光はそらされた。
「今のうちに治してやれ」
ロビンがそう言うなら、と人三人は乗れそうな大きな鳥に触れる。
ぴくりと揺れ、警戒心剥き出しに腕を噛んできたので集中力が宇宙までスペースシャトルのように飛んで行ったがすぐに痛みで我に返った。ギザギザした歯が腕に食い込み、微動だにできない。
なんで俺がこんな痛い目に、なんて生理的な涙が浮かびはしたがもう昔より痛覚に鈍くなっていた。
噛まれたまま構わずに、羽を治癒する。
俺はどうやらただ治りが早いだけでは無いらしい。
こうして自分以外のものを治すことができると、気づいたのはロビンが腰を痛めた時だった。
正直軽いノリで住まわせてもらっているが本来なら赤の他人、迷惑だろうしお金もかかる。なのにロビンはそのことについては文句一つ垂れない。
嬉しかった
ありがたかった。
でもそれは更に申し訳無くなるばかりで、俺は自分にできる限りロビンに尽くそうと腰を揉んであげていたら一瞬でロビンの腰は良くなったのだ。飛んで跳ねて捻挫した足もついでに治した。
他にも色々と試してみたのはロビンの肩こりだとか、転んで擦りむけた膝だとかしょうもないモノばかりだけど全て綺麗に治ってきた。
だから治癒能力があるのでは無いか、とか
「鳥さんもすぐ治るから落ち着いて〜…」
未だに腕を噛んだまま興奮している鳥は、首にアクセサリーを光らせていて不思議に思う。
濃紺色の毛並みに映える、シルバーアクセサリー。太い部分に読めない文字でなにか彫られている。だれかのペットだろうか。
「キズキ…とやらが飼い主のようじゃな」
「いつの間に背後に、ロビンお主なかなかやりよる」
「お代官様程ではありませぬよ」
「苦しゅうない近ぅよれ」
2人できゃっきゃとふざけていたら、鳥の羽が少しだけ動く気配がした。
お、治ったかと羽をみると良い感じに見た目は綺麗になっている。あと少し。そう笑うと腕を噛んでいる鳥の目がこちらをギョロリ睨んできて、びくり肩が揺れる
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