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 無題(4/13)










腑に落ちないがそれから一晩過ごし、王宮へと案内された

すげえ。と、大きなお城に素直に感激している天使を横目に、かっちかちな鋼を纏う門番に頭を下げながら門を通る。
「こっちじゃ」先を歩いて案内してくれる老人って何者。お城の人と連絡をとって勇者を連れていくただの平民、にしてはお城を迷うことなく右へ左へ足を運ぶよな。

疑わしい目でみていると、ポテが噛み付く気配がしたので避ける。


「ぎょきええええ」

「あっぶねえ、ちょ、ちゃんと見とけよ!」

「あ、ごめんごめん。おいでポテ」


きゅうう、どこから出してんだってくらいの甘えた声を出して天使の腕に収まったポテ。
昨日、ポテをみた瞬間にかわいい!だとか宣ってぬいぐるみのように拾い上げた天使、俺も老人も急すぎて止めに入れなかった。が、それで良かったみたい。
なぜか天使の匂いを嗅ぐ仕草をしたポテは、すぐに擦り寄るようにあの甘えた声をあげはじめた。

いい匂いだったの?

そう問ったところで日本語で答えてくれないだろうから、いい匂いだったんだろうと自己解決する。


「おおぉさすが勇者様よ…どこかのボロ雑巾とは種族が違う」


ねえ老人、それ俺のことだろ。

目を細めて老人を見ていたが俺も内心、人種違うんじゃねえかとか思っていたから特に何も言わない。だけどボロ雑巾て、床に座ってるからか。
床に座ってるからなのかはたまた適当に例えたのかなんなの、おこ。

という記憶を消すためにぶんぶんと頭を振る。


「着きましたぞ」


まるで人の家ほどもある大きな門を仰ぐように見上げ、自然と口が開く。

このお城の中が元々尋常じゃなくでかい、この扉がこんなに大きいのも不思議じゃないのかもしれない。
落ち着かない高貴な造りに先ほどから背筋が鉄棒のように伸びていた天使だが、扉が開かれる音に更に反った
反り返りすぎて痛そう。



「ようこそ、勇者よ」



物語がはじまる。

そう思うような台詞に遠くの高い位置に座る男を、みんなが見つめた
何十人もの兵士が両脇に並ぶほど遠すぎて感想もなにもないが、とりあえず偉い人だろう。天使は抱いている手に少し力を込めたのか、ポテが苦しそうにきゅうっと鳴いた。

ポテ、それ俺がやったら齧ってたろ。


「勇者様をお連れしました、アスラン王子」


アスラン王子、と呼ばれた人の目の前で跪く。俺も老人を真似て跪く。天使は突っ立っている。
ちょっ、え、天使お前も空気読んで跪けよ!
王子って言ってんじゃん、この国でかなり偉い人だよ。前に読んだ漫画だと逆らったら打ち首か牢獄行きだったよ。

必死にテレパシーを送ってみるが、どうやら天使にはテレパシー受信ボックスが無かったようだ。


「ほほぅ…これは堂々とした勇者だな」


王子が嬉々としているのは声だけでも分かる、あれ、俺の心配は杞憂に終わったな
ふっと顔を上げると老人に横から頭を押さえ込まれ、下げ続けろと無言の圧がきた。なるほど、今頭をあげていていいのは勇者様だけですね了解しました。
グッと親指を立てると老人は向こうをむいて見ないふりしてきたので、肘で小突いてやる。

(おぬし、王子の手前変な動きは控えろ!)


なにこれ怖い、頭の中に老人の声が直接伝わってきた。
もう二度とされたくない奇妙な体験を果たしたので、大人しく跪いてこうべを垂れたままでいることにした。バランス感覚が無くて右に軽く転がりそう。


「あんたが王子か、それで?俺は何をしたら良いんだ」

「クッ 異世界から来たにしては、随分肝が座っているな。君の前の国もそのように荒れていたのか」

「いや、平和なところだったけど…」

「ならば、君自身が強くあろうとしてるんだな。
まあ正味な話、伝説の勇者様など期待してはいない」


王子はさらりと伝説を流し、重たい腰をあげた。
かつん、綺麗に埋め立てられた大理石の床に打ち付けられる、王子の靴音。
だんだんと近づくにつれて周りが「あの王子が」「自分から人に…」など、真面目な生徒が授業中に携帯を鳴らした時のような反応をする。
なに、気になる、顔あげても良いですか。
いつの間にか下手に出るのがくせになっているのにも気づかず、必死に老人にテレパシーを送る。

ぴくり

とも動かない老人にテレパシーは届かなかったかと悔やむ反面、返事がないどうやらしかばねのようだ。
というお決まりの台詞が出て噴き出しかけた。


「ほう、君は近くで見ても綺麗なんだな」


どすり、小突かれてよろめく。

老人おい、王子が見てない隙をついて小突いただろ。なんだよ聞こえてたならさっき反応しろよ。


「綺麗とか、よく言われる」

「僕のハーレムに欲しいくらいだけど、君にはこれから沢山の修行を積んでもらわなきゃいけない。我慢しよう」


どん、俺も王子が絶対見てないだろう角度で老人を押した。

すると不意打ち過ぎたのかよろけて、右手を地べたについて自分の体重を支えようとするからヒヤヒヤする。ごめん今のはやり過ぎた、ふざけ過ぎた。
必死に片手を顔の前で立てて謝るポーズを見せると、老人は許してくれる

と見せかけ、思いっきり押し倒された。


「ったあ、肘打ったあ!」

「…」

「え あれえ、なんで自分関係ないですみたいにこっち見ないの老人」

「…」

「いやいやいや逆に怪しいからそれ」

「…」

「…」


返事がない、ただのしかばねのようだ。

尻餅をついて痛いけつを持ち上げ、静かに老人と同じ体制に立て直す。
今更ながら王子の視線がこちらに来てしまったことに顔があげられません、天使はぶはっと笑いはじめた。

天使は笑い上戸なのかと思う


「…いいよ、頭をあげろ二人」

「はっ!申し訳ございませぬ。この無礼者も何分、異世界からの者でありまして、勇者様とは決して関係ないとは思いますが連れて参ったのです」

「異世界から、2人も?」

「はい」


ゆっくりと顔をあげた。

天使とは違い、膝まづいたままで王子を見上げる形になる。
うわあ綺麗な顔、日本人離れした美形。黄色に近い茶髪と王子というに相応しい甘い顔。穏やかなアーモンド型の目と目が合い、どうして良いかわからずに天使をみる。

まだお腹を押さえるようにして笑っていた


「い、いいキャラしてんよなあんた!はははっ」


ありがとう、あまり嬉しくは無い。

そう答えて周りからの視線を確認するが、すべて天使に注がれているようで安心する。
笑った顔もまさに天使と言っているどこぞの兵士を気にすることもなく、更には俺まで見て見ぬふりすると王子は決めたらしく

「まあ話の続きは奥の部屋でしよう」

そう天使の腰を抱いて、足を進めた。

なんだかスキンシップの多い人だなあという顔で天使は着いて行き、老人はここでお別れだというので えっと驚いた顔をみせる。


「俺はどうしたら」

「君は好きにしていい、僕等が今必要としているのは勇者だから」


老人はなにも言わない。

こんな言い方するとあれだけど、今必要とされているのが天使なら俺は要らない。
そういう意味なんだろう。


「じゃあ、帰ります」


どこに?

まさにそんな顔の天使と老人とは違い、王子は何も思わないというように「そう」とだけ言って目をそらした。


「さあ老人、帰ろうか」

「わしの家には住ませんぞ」

「前途多難」


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