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 無題(3/13)






「千年に一度の奇跡なのです」


老人はすがるかの様にそう言った。

さっきも同じ言葉を聞いた気もするが、どこかイントネーションが違う。
天使は分からないというように首を傾げたが、老人は起動し始めたジェットコースターのようにそのまま続ける。


この国は水や木々花々に囲まれ
とても豊かな国だった。

でもある日を境に、均整の王が喪失。
この国を守っていたシールドは無くなり、早数十年は経つんじゃないだろうか。
次々と怪物や魔王の遣いが住み着き始め、自然は壊滅の危機に陥ってきた
新しいシールドを張る準備は進んでいるが、住み着いている魔王を倒さねば意味を成さない。

でも誰1人として魔王の元まで辿り着けない。

国の総力をあげた軍ですら、今では半数しか残っていない。
魔力の元々ない平民たちは、泣き寝入りしているしかなく。
いつか伝説の人が現れるまで、それを毎日夢見て暮らすのだ。


その伝説とは、異世界から落ちてくる者


強力な、魔王とは反対に光の力を持った勇者。



「まさにあなた様のことなのです!」



力んだように天使の足にしがみつく老人

唖然としたまま、ベッドに座っていた天使はハッとしたように首を振る。


「俺は、そんな力は無い」

「有ります!」

「無い!だって俺は、普通の人間で、いつも通りファミレスでユキトと宿題するために…」


そこで何か思い出したのか、顔を青くした。


「俺は殺されたんじゃなかったのか…?」


その言葉に、俺は自分の腕を思い出した。

あ。なんてそんな軽く思い出して
あれだけ痛かったパテに噛まれた腕を確かめ、右腕がまったく痛くないのを伸ばし折りして確認する。
半袖だから袖は無事なものの、ズボンは血がこびり付いていてパリパリ。
でも、腕は傷跡すら残っていなかった。

ぞわり、背中に冷たい汗が流れた気がした


「おお勇者様よ、戸惑わないでください。貴方はこれからこちらの世界の住人なのです」


俺は勇者ではないけど、それは俺にも言われてるんだろうと何と無く察してしまう

天使はそんな、と衝撃を受けているがたぶん心の何処かでは分かっていたのか、暗闇を帯びた眼を伏せると黙り込んだ。
再び眼を開く頃には淡い光を帯びた瞳に変わっていて、老人を強く見据える

こいつは心まで凡人じゃないのか、とか


「…俺は、何をしたら良い」


天使は、ただの天使じゃなく
とてつもなく肝の座った男前な天使なのか。とか。

俺は老人の横にすでに体育座りしており、何もやる気が起きていない。


「おおお!勇者様よ、それでこそ選ばれしお姿じゃ。どこぞの転がりアンデットとは種族が違う」

「老人。おい老人、それ俺のことだろ」


アンデットって、ゾンビ的なのか。

さんざん存在を無き者としていたくせにこんな時に例えにあげやがって、なに、コップ割られたこと根に持ってるの?
ごめんねお気に入りだったなら謝るからあまり無下に扱わないで心が折れる。

かたん、天使がベッドから降りて俺の前にしゃがむ。

綺麗だなとずっと思っていた顔は、近くでみると更に破壊力抜群だった。
濁りない潤しい瞳と、透き通る白い肌。桜色に色付いた唇が開くと、並びの良い歯が覗いた。


「お前もそうなのか?」


お前もそうなのか?とは、勇者かということだろうか。

とっさに首を横に振ると、老人が言葉で「そうだ」と肯定した。老人どうした。


「なんで嘘つくんだよ」

「嘘って言うか、勇者だったのか」

「いや違うかもしれん」


どっちだよ曖昧だな。


「だがしかし勇者様と一緒に落ちてきたのは事実、異世界の者ということも事実じゃ」

「天使が勇者なのはなんでだよ」

「見るからにわかるじゃろうがああ」

「ええええ」


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