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寒かったのでさっさと書き終えて店に入る。
「すみません」
おしぼりください。
ちいさな男の子がたどたどしく声をかけてきたので、笑ってすぐお持ちしますと返す。
一緒に来ているのは兄なのか父なのか、判定に困る男だが女性の姿は見当たらないから2人で来ているようだ。
「はい、どうぞ」
ドレッシングを零した様子だったので、余分に2つ持って来たものをテーブルへ置き、1つ渡す。
ありがとうございます。ちいさな声で言われたお礼は、年の割に落ち着きを払ってるように見えた。
男性のほうにもぺこっと頭を下げてキッチンへ戻る。
「あそこの2人、最近よくランチに来るね」
そうなのか、知らなかった。
叔父と一緒にキッチンを担当してるひとが、ホールをのぞきながら言うからおれも物陰から盗み見る。
やはり年の割に落ち着いてるその子は、じぶんでじぶんの零したものを拭いて片付けていて賢い。一緒にいる男性は、しずかにそんな様子を眺めているから奇妙だなと思ったり。
「おいお前ら、減給されたいか?」
ゆらり、背後に立つ叔父にびっくりしながら慌てて仕事を探す。
「あー、メニューでも拭いてこよっかな!」
「明日のお肉の仕込みしよっかな!」
ぱあっと散るようにそれぞれの配置に戻る俺とキッチン担当に、叔父はあきれてため息をつく。
だって仕方ないだろ。平日のランチタイムは、そんなに忙しくないんだから。
むしろ俺が要るのかってほど暇な今日は、客もあの小さい子と男性、ノートパソコンを開いてる女性、あとカップルが1組。どのテーブルもすでに食後であとは帰るのを待つのみ。
「夜のバーの方がひと多いんですか?」
レジのカウンターに座って、雑務をさせられている爽やかバイトがそう問ってきた。
おれは布に霧吹きをかけながら、そうでもないと返す。
夜は夜で確かに客層が違うけど、はいってくるのは3組程度。華の金曜日になるとやはり満員にもなったりするけど、平日はそんな盛り上がってるイメージがない。
「夜来てみれば?」
「大学入ったら、来ようかな」
そういって高校生らしい笑顔で、ペンを揺らした。
『ええ〜!ゆゆも来いよぉ!』
『そーだそーだ』
《あのね…》
てめぇら口を動かしてる暇があればさっさと敵を倒してくれ。
回復役のおれはさっきからふざける助さんととみりさんを、死んでは起こし死んでは起こしと蘇生ざんまい。文字を打つのすら疲れて来た。
本気を出したら一瞬で倒せるくせに…。
『わーちゃんも来ないしさあ』
『ありすは確か九州とかだもんな』
わーちゃん、とたまにとみりさんが呼ぶ。
ありすちゃんの本名がわたるだからだ。
このひとはいつも人の本名をペラペラと言ってしまうから、信用ならない。絶対に俺の情報はびた一文与えてやらないと決意しながら、また戦闘不能なとみりさんを起こす。
ボスも早く倒さんかい、って思ってるよ。
『てかさ、ゆゆってあのカフェ行きつけなんだろ?俺の職場も近いよ』
助さんが驚くようなことを言うから、操作をミスる。
『え、ゆゆ行きつけなんてオシャレなことしてんのー?』
『カイドウが言ってた』
『でたカイドウ』
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