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オフ会。ネット上でであったひとが、リアルで会うこと。

それはオンラインゲームするようになってから、頻繁に耳にするようになった単語だった。


「オーダー取りに行ってきます」


お冷とおしぼりをトレーに乗っけて七人ほどの集団にむかうバイトを見送る。

おれはあの集団には極力関わりたくない…なんたって、何のオフ会か知っているから。






《今日もあのカフェでオフ会あったんだけど、やっぱゆゆらしい人居なかったなー》

《らしい人ってw》


いや、本人居たしな。七人も来るから仕方なくオーダー運んだっつうの。

のらりくらりグループでの会話を交わす女アバ、ゆゆ。これがゲームの中での俺だ。


《ゆゆってまだオフ会参加したことねえの?》


ないっていうか、参加する予定もない。
そんなこと言えばこのグループでの活動がやりづらくなるので、今のところは。と答える。

グループはいくつか所属できる。
なかでも大きいグルは100人いて、人数が多いほど良いというわけではないが人数が多ければやっぱり知名度も高まる。
その他で知名度をあげるとなると、ランカーとよばれるゲーム内でのランキング上位にいる強者とかかな。

おれが今喋っているのは、そんな強者が30人ほど集まるグルだった。


《おいゆゆ、お前いつになったらくるんだ》


でた。


《わーカイドウさんいつも幹事お疲れさまです》


このグルのマスターにて、オフ会大好き人間カイドウ。

こいつはランカーや知名度の高いプレイヤーが大好きだ。
やはりランカーになるには相当課金が必要で、多い人では一度の課金に40万は突っ込むという。

金持ちか、ただの課金依存が生活費ぎりぎりで出してるお金か。どちらにしろそれなりの稼ぎはあるので営業マンのカイドウはランカーと会うことでいざというときのパイプを作ってる。らしい。

おれは別にランカーではない。ただこのゲーム初期から居るいわゆる古参。

新参者や辞めていくメンバーが多い中で、昔の話が出来る古参は知名度もそこそこで。


《おまえが来ないとありすが来ないだろ》


ありす。それはこのグループで希少なランカー女子。

おれはありすちゃんに大そう気に入られている。おれが行かないなら、行かないと断る口実に使われているのは納得いかないが、まあありすちゃんなら許そう。


《あ、19時からパテでクエ行くんだった!また話そ!》


じゃあねん。なんて、グルに打ち込んで今インしたありすちゃんにダイレクトを送る。

すると少し間があいて、すぐにボイスチャットが起動された。


『ゆゆちゃーん!おはよ』


すこし高めだけど男と分かる声音。

そう、ありすちゃんは男だ。全員見事に騙されて、ありすちゃんに惚れたりするやつもたまに現れるがそれも分からなくもない。


《おはよ!ありすちゃん》


カタカタと、おれのほうはマイクを起動せずに画面に打ち込む。

ありすちゃんは慣れたようにそれを読みながら普通に喋りかけてくるから、すごく楽。行く予定だったクエストの為にパーティを組む。

臨時でつくるグルのようなものだから、募集をかけたりもするけど基本俺らはお決まりだ。





『よ!』


ボイスチャットが追加されて、読んでいた雑誌を置く。

いかつい鎧をまとっただっさいアバターは、ランカーの中でも有名な課金者。SUKEと綴られた名前を打ちづらくて助さんと呼んでいる。まるでどこぞのお連れの名前だ。


『すーちゃんいらっしゃい〜』

『とみりももうすぐインするって』


助さんーー!と元気に打ち込めば、相変わらず喋らねえのかよと突っ込まれた。

低い声は攻めるようではなく、ただ少し喋らないおれに興味があるようだった。

とみり、と呼ばれたのもまた男で、一時期莫大な課金をして常にランカーだったけど飽きたとかでランカーの座をぽいと捨てたやつ。いまは課金してないから弱い、といいたいところだが、課金してた時期が結構最近なのでまだ、わりと強いと思う。


《あと一人どうしようか》


おれが打ち込むと二人はだれでもいいと言う。

雑魚がパテに入っても自分たちの強さでクエを簡単にクリアできるからなんて言うけど、俺が心配してるのはそこじゃない。

知らないやつを入れるとありすちゃんがボイスチャットできないからだ。


助さんとみりさん俺以外は、そもそもありすちゃんを女と信じて疑わない。


《じゃあ適当に引っ張ってくるね!》

『よろしくゆゆちゃん!ネカマは引っ込むよ!』

『おーじゃあなネカマ!』

『すーちゃんぶっころ』


物騒なことを言ってマイクを切ったありすちゃんと入れ替わるように、適当なひとを引っ張ってくる。
よろしく〜とチャットで話す俺等に、新しいメンバーもよろしく〜とチャットする。


『待てよ俺だけボイチャとか寂しくない?ゆゆ来いよ』


またそうやって、ムチャブリする。

話すつもりはないけど喉がはりついて、こほっと咳がでた。

ごまかしてチャットを返していると、ぷちっと回線が繋がる音でメンバーが増える。


『やっほ〜ごめん遅くなった〜!』


ぱりぴ。その一言に尽きるテンションでパテに入ってきたとみりさんに、音量を無意識に下げた。

ひゃひゃひゃと独特な笑い方をするとみりさんは最初酔っ払いかと思ったけど、常時やばいテンションの人らしい。
アバも本人そっくりで奇抜な帽子をかぶったり変な装備つけてたりで、正直怖い。


『おせーよとみり!また女と遊んでたんだろ』

『え〜そうすけと一緒にしないでよ、まあそうなんだけど』


そうすけ、とはSUKEさんの本名と聞いていたのに、パテに新参者がいることを知ってもとみりさんはそうすけそうすけと連呼する。


《やだーとみりチャライー》

『えーありすだけだって、妬くなよ』


きゃっきゃとふざけたやり取りをよそに、そっと黙ってクエストにはいった。

パテを組んでると勝手に引き込まれる仕様なので、おい誰だと準備がまだだったとみりさんが騒ぐ。それをありすちゃんがチャットで《ざまあw》と笑い《ざまあw》とおれもふざけて続く。
助さんと新入り君もノリ良く続いて、今日も楽しいパテになりそうだなと頬が緩んだ。






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