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カイドウめ。
あいつもあいつで、口が軽い。しかも仕入れた情報を誇張して伝える節がある。誰も行きつけだなんていってないだろ、ちょっと頻繁に行ってるような台詞を言っただけで……。
《あそこら辺オフィス街だよね、助さん本当に働いてたんだ》
はなしを違和感ない程度にそらすため、そう打ち込むと「うるせーよ」と、助さんがわらう。
やっと敵を全部なぎ倒してくれて、ひと段落。
回復しすぎて目が凝ったから、今日はクエはもういいかなって思ったところにありすちゃんからのダイレクトがきた。
チラ見する絵文字。かまちょだなほんと。
《助さんとみりさんと遊んでるけど、パテくる?》
そうダイレクトすると、しばらく間が空いて返事がくる。
《んーん!かまちょしただけ楽しんで!》
とみりさんにも送ったらしく、わーちゃんがぶっころってダイレクトして来たというので苦笑。
点々とグルを抜けたり入ったり、行動が読めないありすちゃん。おれは毎日似たようなひととしか遊ばないが、彼は一定の人と遊ぶことの方がむしろ少ない。ネカマを極めるとか言って男アバを口説いたり、ゴミ武器育てて装備埋めたり。ゲームの楽しみ方を少々間違えてるけど毎日が楽しそうでなによりだ。
『んじゃ、俺も彼女くるし落ちるわ』
え、助さん彼女いたの。
いつものメンツで一番その気がなさそうな助さんの新事実に驚きつつ、おつまたね。と打ち込む。
とみりさんと2人きりになるのは気まずいので、俺も他のやつのパテに行くことにした。
《じゃあまたね!とみりさん》
『はいは〜い、またな』
助さんもとみりさんもありすちゃんも居ない、小さくこじんまりしたグルで挨拶すると日付が変わる頃だというのに5人程が反応をくれる。
夜行性なグルだから他の面々もそろそろインするだろう。
今日はこのグルでだらだら遊ぶか。
「ありがとうございましたー」
まの抜けた挨拶はやめろ。
叔父に注意されながら語尾を縮めて「たっ」と返すと殴られた。いたっ。
どうでもいい絡みに笑う常連客に頭を下げながら、キッチンへ入ると爽やかバイトが勉強している。
なんの勉強なのかと覗き見たが、どこかの入試の過去問を解いてるみたいだ。
「邪魔すんなよ?」
叔父の一言に爽やかバイトが顔を上げる。
「あ、西野さん。こんなところですみません」
「いや暇だしいいと思う」
「店長がセンター入試近いからって、忙しくなるまで勉強させてくれてます」
こんなところで集中できんの。
なんて聞かなくても、またすぐに問題に視線を落とすから集中できるんだろう。
叔父のいったとおり邪魔しないように、どこの過去問か探ろうとした手を止める。
「よーし、お前はホール掃除な。あいつの分も」
「はあい」
あいつの分も、なんて言われなくてもするっての。
お客さんが少なくなった隙を見計らって、ホールの隅々まで綺麗にしていく。
店内に流れる最新ヒットチャートをききながら、黙々と拭き掃除をしていると店の外に見覚えのある男性。
なにか困ったように地面をみつめてる。
と思いきや、小さい子と一緒にランチメニューの看板を見つめてるようだった。
ほんとに頻繁に来るんだな、キッチンのくせに常連客を把握してるキッチン担当を素直にすごいと褒めた。
「いらっしゃいませ」
チリンチリン、来店の鐘が鳴ってようやく入ってきた2人をテーブルまで通すと小さい子が「あのっ」と声をかけてくる。
「はい、何ですか?」
「じ、じぇのべーぜ…ってなんですか」
いすに座ったその子より低い目線になるためにしゃがむと、そんな質問をされて子供にわかりやすい言葉に悩む。
「うちでのジェノベーゼは、バジル…独特な香りがする緑の野菜〜って感じのパスタです」
「茶色のやつじゃないの?」
もしや、こいつ詳しいな?
本来、世界でのジェノベーゼはバジルじゃなく、玉ねぎをたっぷり使った甘い茶色いパスタを連想させると聞いてる。
日本ではバジルを使った緑のペスト・アラ・ジェノベーゼをジェノベーゼと呼んで親しんでいるらしいし、どちらも正解ではあるのだけど。
この子が食べたかったのは茶色い方……玉ねぎの方だったのかな。
「すみません、この子はあまりバジルが得意じゃなくて」
おだやかな声音で、俺とその子の話に入ってきた男性をみる。注文以外で口を開いたのは初めてかもしれない。
というか、なるほど。だから本日のパスタがジェノベーゼと書いてあった看板を2人で困った顔して見てたのか。
「ちょっと聞いてきますね」
え。という男性を置いてキッチンへともどり、叔父に小さい子の話を伝えると「詳しい子だな」と面白そうにする。
面白いから玉ねぎのジェノベーゼを作ってやってもいいぞ、なんて大層上からな叔父にやった!と俺が喜ぶ。軽い足取りでその子のもとまで戻り、また同じようにしゃがむ。
ふと思っていたが、間近で見るとほんとに整った顔しているなと思った。
「店長が玉ねぎのジェノベーゼ作ってくれるそうです」
「え…」
嬉しそうにしたのは一瞬で、すぐに男性の顔色を伺うようにみるその子。
つられるように男性をみると、驚いたように「いいんですか?」というから、はいと頷く。
「ありがとうございます。じゃあ、僕は本日のパスタでこの子にはそのジェノベーゼを」
「かしこまりました」
すこし違和感は残るものの、男性のほうが良かったなと話しかけるとホッとしたように子供は笑った。
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