なつのけもの2 | ナノ





「別れようか」

わたしが沖田さんに別れを告げられたのは、付き合ってからちょうど2年経った高校3年の秋のことだった。沖田さんはすでに高校を卒業して大学に進学し、わたしも彼と同じ大学に行くため勉強をしている最中だった。今でもはっきり思い出せる。わたしたちが付き合い始めた日に、わたしたちが思いを伝え合った場所で、喧嘩をしては仲直りをしていた場所で、あの、思い出の場所で。彼はわたしにさよならを言ったのだ。確かに、彼は大学での勉強やサークル活動、バイトなどが忙しそうで、わたしは受験勉強にかかりっきりで、なかなか会うこともできずすれ違ってばかりいた。たまに会っても携帯をいじってばかりでわたしと目も合わさない、一緒にいてもあまり笑わない。正直、なんとなく気付いていた。けれど、わたしは、なにも知らないふりをした。彼が何かを言うまで、わたしは黙って彼のそばに居た。そして、その「なにか」を告げられた日が、たまたま記念日に重なっただけ。ただ、それだけ。彼が記念日を覚えていてわざとその日に告げたのか、それともただ覚えていなかっただけなのか、それは今になってもわからない。


「それじゃ、バイバイ」


彼はわたしの返事を聞くことなくその場から去っていった。わたしがどんな答えを出そうと関係ないのだろう。だって、彼の中ではもうわたしとの関係は終わっているんだから。涙が出ることも、崩れ落ちることもなかった。随分長い間そこから動けなかった、ただ、それだけ。気付いたら自分の部屋にいて次の日になり、気付いたら学校へと向かい、気付いたら進学先を変えていた。そうして冬が来て、春が来て、新しい生活が始まって、知らなかったことをたくさん知って、いろんなことを経験して。いつの間にか彼のことは忘れ、思い出すこともなくなっていた。

あの別れから数年。まさか彼と再会する日が来るなんて、思っても見なかった。


(きりりと古傷が痛んだ気がした)