糖分過多 | ナノ



「千鶴」


左之助さんはやけにわたしを甘やかす。やさしい手つきで頭をなでて、額に口をつける。その一連の動きに違和感なんてものはなくて、とても様になっているせいでわたしの心臓は常に忙しなく働いていた。彼の色気にあてられて目眩がする。彼がわたしを甘やかすのは、きっと、わたしが子供で彼が大人だからなのだろう。毎日いろいろなお土産をわたしのためにと持ち帰って、それに申し訳なさそうにすると気にするなと言わんばかりにやわらかなキスを落とす。休日には疲れているはずなのに家事や買い物に付き合ってくれるし、課題につまずいていると助けてくれる。左之助さんはとてもわたしを甘やかす。けれど、わたしは何も返せない。


「千鶴、どうした?」


わたしに少しでも変化があると、左之助さんは必ず気にかけてくれる。とても小さな悩みでも、彼は親身になって聞いてくれる。落ち着いた雰囲気に、また大人と子供の差を感じてしまう。それがなんだか悲しくていつもと違う対応をしてしまったのは、やはりわたしがまだ子供だから、なのだろうか。


「別に、なんでもないです」


突き放すように答えて、そのまま自分の部屋に逃げ込んだ。左之助さんの顔は怖くて見れなかった。ほとんど使うことのない自分のベッドに体を沈めて、自己嫌悪に陥る。単純に心配してくれた彼のやさしさを拒絶してしまった、悪循環。現実から目をそらしたくて、気がつくと意識を失っていた。身じろぎをすると耳元に呼吸を感じる。目を瞑った時には感じなかったぬくもりに胸を締め付けられた。


「千鶴」


左之助さんは、怒っていないらしかった。泣きそうなわたしを安心させるように顔中に、キスをちりばめていく。堪えきれなかった涙を吸いとって、そのまま目尻に唇を這わせた。


「どうして、どうして左之助さんは、わたしを甘やかすんですか」
「……千鶴は、いや?」
「ちがくて、……だって、わたしを甘やかすのは、わたしが子供だからでしょう?」


その瞬間、彼の動きが止まった。ああ、やっぱり。もう一度涙がこぼれ落ちそうになって、なんとか堪えようと歯を食い縛る、突然唇に温かい感触がした。口の中をこじ開けられ、舌が絡まる。いやらしい音が脳内に響いて、頭がまともに働かない。


「さ、の、」
「俺は、お前を子供と思ったことなんて一度もない」


唇が離され痛いほど抱き締められ、熱のこもった声に体温があがる。目と目が合った時、彼の瞳に吸い込まれそうになった。


「俺がお前を甘やかすのは、お前を愛してるからだよ、千鶴」



糖分過多


(今なら溶けて死んでしまってもいいと、思った)




―――――――
社会人×大学生