どうかわたしを | ナノ


「ユーリは罪な人ですね」


花やプレゼントにまみれた広い部屋、きらびやかな装飾、隅に大事そうに置かれた真白なドレス、それを纏うのはかつての旅の仲間、元皇帝候補、俺とは住む世界の違う、小さくて可憐、それでも強い意志を持ったお姫様。長い時間を共に過ごした。助けたこともあったし、助けられたこともあった。世界を救ったその瞬間、これで彼女も解放されると思った。傷つくことも苦しむこともない、これでやっとすべてが終わったと、そう思った。


「ユーリはひどい人です」


旅が終わってから、ギルドは随分と忙しくなった。会うのは数少ないメンバーと依頼人、あとはその対象だけ。帝都に帰ることはなかった。ハルルに向かうこともなかった。今考えると、無意識に避けていたのかもしれない。そうやって時が過ぎていった。エステルが結婚するとリタが伝えにきたのはあまりにも突然の出来事だった。


「どうして、今更会いに来たんですか」


久しぶりに目にした彼女は少し髪が伸びて大人びた雰囲気をしていた。昔とは印象が違う、女の子から女になった。どうして今になって彼女のもとへやってきたのか、それは自分でもわからない。とにかく焦ったのだ。心のどこかで、彼女は変わらないと勝手に思っていた。廊下ですれ違ったヨーデルは哀しそうな顔をして俺に頭を下げ、フレンはまるで俺を攻め立てるように睨み付ける。すべてがもう遅い、そう言われているような気がした。


「…ねえ、ユーリ。お願いがあるんです」


震える声で、エステルは俺だけに聞こえるよう呟いた。



どうか
わたしを
さらってください


俺はその手をどうしただろう


――――――