邪魔をしないでよ | ナノ




勇気を出して好きな女の子を部屋に呼んだ。部屋の外には誰もいないらしく辺りはしんとしていて、もし自分の胸の鼓動が彼女に聞こえてしまったらどうしようかとハラハラする。お互い近くも遠くもない微妙な距離をとって座っているが、視線は合うことなく宙をさまよっている。少し時間が経ち、会話もなく、このままでは駄目だと心の中で叱咤して部屋に彼女を呼んだ時よりも勇気を出し、彼女に向き合った。



「出雲ちゃん」
「な、なによ…」



距離を詰め、顔をぐっと近付けると彼女は驚いて自分を思いきり睨み付ける。けれど頬が赤いせいで迫力が半減だ。幸い彼女は手を出したり逃げ出したりするつもりはないようで、勢いのまま唇を寄せる。彼女が静かに目を閉じたのを見て、自分もそっと目を閉じた。と、同時に、すぱんと音をたてて戸が開く。



「廉造!お前彼女連れ込んでなに…しよ、る…」



ああ、なんてことだ。突然現れた金兄に彼女は顔を真っ赤にして近い距離にいたままの自分を思いきり突き飛ばす。そしてそのまま部屋の隅に逃げてしまった。タイミングの悪い金兄を思いきり睨み付けるとまるでおもしろいものを見つけたような顔でにやにやと自分と彼女を見ている。


「金兄…!」
「いやー、すまんなあ?いいところ邪魔してしもたみたいで」



そこの彼女もほんまにすまん、と金兄は謝ったがそこに謝罪の意は入っていないだろう。その証拠に声が浮わついている。彼女は相変わらず隅っこでこちらに背を向けて座っているが耳は赤いままで、きっとまだ頬の赤みがひかないのだろう。そんなとこもかわいいなと油断していたら、金兄が彼女に近寄った。



「なあ、名前教えてーや」
「ああああ!金兄!出雲ちゃんに近づくんやない!」
「へえ、出雲ちゃん言うんか。俺は金造。よろしゅうな」



油断も隙もない。ちゃっかり自己紹介を済ませた金兄に思いきり舌を噛んで睨み付ける。どうしたもんかとあわあわしている彼女を視界の端で捕らえかわいいなあと思うが、この空間に金兄がいることが気にくわない。いいところを邪魔されたから余計に。



「はよ出てけや」
「いやや」



そのまま金兄は図々しく部屋に居座り、彼女と二人きりでいちゃいちゃするという淡い期待は脆くも崩れ去った。もし金兄が彼女を連れ込んだら、それを盛大に邪魔してやろうと思う。




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forやいこさん
リクエストありがとうございました。遅くなってしまって本当にごめんなさい!
廉造以外の志摩家の人を出すのは初めてなのでうまくいったかわかりませんが、よろしければ受け取ってください。
これからもよろしくお願いします。

pochi/日高