俺の大事な先生2 | ナノ

これこれのつづき


今日の服装は黒のタイトスカートに白いブラウス。ストッキングに覆われた白い足を眺め、それに満足したら次は黄色のチョークを掴む細い指。爪には申し訳程度にトップコートが塗られており、清潔感を漂わせている。その指から記される繊細な文字をクラスメート達は追っているのだろうけど、俺だけはいつも違う。服、足、指、高い位置のポニーテールからのぞくうなじ。黒板は一切見ることなく、俺はただひたすらに先生だけを見つめている。俺がいつも起きているのは先生の授業だけだと彼女は気づいているのだろうか。いや、あんなことをしでかしたのだからきっと気づいている。あの日から、先生は俺とあまり関わらないようにしている。用がある時にだけ俺と言葉を交わし、世間話をする暇もなく、終わるとすぐに立ち去ってしまう。それが逆に俺を意識しているのだと思わせて、先生の中に自分がいることに喜びを感じる。感じるのだけれど、俺は自分勝手な人間だから、気になることがあったら行動せずにはいられない。


「せんせい」
「…坂田くん」
「少しおはなししよ」
「ごめんなさい、まだやることがあるのよ」
「すぐ終わるから大丈夫」


どうにかして逃げようとする先生を逃がすまいと捕まえて、近くにあった教室に入り込む。誰もいないことを確認して部屋に鍵をかけた。先生の目には少しばかり恐怖が浮かんでいて、相変わらず俺と目を合わせない。


「何をするの」
「別になんもしないっすよ。お願いがあるだけです」
「…お願い?」
「…俺から、目を逸らさないで」


普段チョークを持つ先生の右手をとり、俺の両手で包み込む。あの日から先生は俺の目を見てくれなくなった。それがひどく寂しくて、嬉しいはずなのに悲しい。

これ以上警戒されても困るので、それだけ告げて手を離し、先生に背を向けて部屋から出た。俺の事を見てほしい。ただのワガママだというのは、自覚していた。




俺の大事なせんせい


あの教室が、数学準備室だと気づかない




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ハッピーバースデイお妙さん