先生とわたしのはなし | ナノ


「土方、せんせ?」「ああ」だんだんと視界が明確になっていく。なかなか働かなかった思考もやっと動き始め、目の前の人物を理解する。立っていたのは土方先生で、教室で寝ていたわたしを起こしたのも、わたしの名を呼んでいたのも、すべて土方先生。「こんな時間にこんなところで寝てたら、風邪ひくだろ。窓も開いてんのに」「ごめんなさい」呆れた顔で先生はため息を吐いて、すぐに苦笑いをした。見たことのない表情の先生。だけど、なんだか懐かしい。先生とこんなに会話できたのも今回が初めてだし、ましてや二人きりになったことなんてない。なのに、どうしてだろう。いつも授業中に先生を見ている気持ちとは違う、少し寂しくて心地よい感覚。知らないはずなのに、わたしはこれを知っている。「あの、先生…」話しかけた瞬間、開いていた窓から強く風が入り込んだ。冷たくて痛いくらいの風が教室を駆け抜け、思わず目を瞑った。しかし、わたしはそのとき見たのだ。目を瞑る瞬間に先生の周りに桜の花弁が舞ったのを、わたしは確かにこの目で見たのだ。