夢のはなし | ナノ


わたしは夢を見ている。夢の中にいるのはわたしと、ぼんやりとした薄い影しか見えない男の人。その人は度々わたしの夢に出てきては繰り返しわたしの名を呼ぶ。ちづ、といとおしそうな声音で、わたしを呼び続けるのだ。あなたは誰なの、と聞き返そうにも、どうしてかわたしの口は開かず自分からはどうすることもできない。しばらくすると男の人はわたしに近づいて、着流しの袖から伸びる腕をわたしの頬にそっと添える。その瞬間だんだんと男の人には色がついていき着流しが藍色に染ままり、もう少しで顔が見える、その手前で、わたしの夢はまるで何事もなかったかのように突然終わりを告げるのだ。そうして次の夜、また同じ夢を繰り返す。