愛を囁かないてのひら | ナノ



カーテンを開けると柔らかな陽光が部屋の中に射し込んだ。窓から入り込む風が涼しくて、今日はなんだか穏やかな日になるような気がした。隣には規則正しく呼吸をする、未だ深い眠りについたままの彼が静かにそこにいる。さらさらした前髪を撫でて少し避けた後、露になった白い額に触れるだけの口づけを落とした。


「はじめさん、今日はいい天気ですよ」


一言だけ告げて部屋を出ていき、朝食の準備をする。今日は洋食の気分だったので卵を割りベーコンと一緒にフライパンに流し込む。トーストを一枚用意して、ヨーグルトを冷蔵庫から出し砂糖とミルクをたっぷり含んだコーヒーを作る。なにもかもが、一人分。一人暮らしを始めたばかりの時は手間取ってばかりで上手くいかなかった料理も、今では簡単にこなせてしまう。少しずつ成長していくわたしを彼は嬉しそうに見つめていて、それすらももう懐かしい思い出だった。

朝食を食べ、すべての支度が終わってからもう一度寝室へ向かう。まだ起きることのない彼の真っ白な頬に唇を寄せ、静かに眠っている彼を少しの間見つめてから部屋を出た。今日もまた、新しい一日が始まる。


「いってきます」


彼はまだ、目を覚まさない。



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