今夜は月が綺麗ですね | ナノ




「月がきれいだね」


僕にそっと寄り添うしえみさんは、空を眺めてうっとりと呟いた。


「しえみさん」
「なあに、雪ちゃん」
「…近くないですか?」


隙間がないくらいぴったりとくっついているしえみさんからは僕好みの甘い石鹸の香りがしてくらくらする。男は狼なのだ。しえみさんはそれをわかっておらず安心しきった顔で僕の肩に頭をのせ、かわいらしく甘えている。そうすることで学校や塾での疲れを癒そうとしているのだ。僕に甘えてくれるのは構わないが、その無意識で天然なやり方がひどく残酷だと思った。


「だって、寒いんだもん」


雪ちゃんは寒くないの?と、太ももに手を置いて僕に問いかける姿はまるで魔女だ。角度的に上目づかいになる大きな瞳は、月明かりのせいでひどく潤んでいるように見える。それに吸い込まれてしまいそうになるのをぐっとこらえて、自分の欲望を必死におさえこんだ。まだ早いのだ。突然僕のすべてを押し付けたら、しえみさんの中の僕はきっと崩れてしまうだろうから。


「ふふ、雪ちゃんあったかいね」
「しえみさんもあったかいですよ」
「ほんと?じゃあもっとくっついていいよ」
「いえ、大丈夫です」


透明な月明かりが、僕にはまぶしかった。




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forたらこさん
リクエストありがとうございました!
雪しえは初めてだったのですが、いかがでしょうか。
よろしければ受け取ってください。
これからもよろしくお願いします。

pochi/日高