最近のヤツは体調が思わしくないためかよく床に臥せていた。剣術の鍛練も日ごとに回ってくる巡回も休むことが多くなり、近藤さんは大丈夫なのかとしきりに心配していたが俺はまったくそんな風には思わなかった。真っ青な顔で不調を訴えた次の日にはけろりと元通りになっていて、まるで前日のことが無かったかのように総悟は普段通りに振る舞う。だから俺は、今目の前でだるそうに横になっている総悟がどうしても信じられないのだ。 「こんな真っ昼間から、土方さんてばサボりですか?」 「阿呆か、お前じゃあるまいし」 「失礼な」 「事実だろうが。大体お前、体調悪いのになんでこんなとこで横になってんだ」 「暇なんでさァ」 廊下でだらんと力を抜いている総悟は言葉を交わすぶんには普段と何ら変わりないが、どうにも顔色が悪く青を通り越してむしろ白い。近藤さんが見たら無理矢理布団まで引きずり込むであろう白さだ。俺はそんなことはしないでなんとなく総悟のそばに腰をおろして煙草に火をつけ思いきり煙を吐き出した。もちろん、ヤツのいない方向に向かって。 「やっぱり、サボり」 「ちげえよ、休憩」 「言ってろ」 「おいこら、殴んぞ?」 クスクスと笑っている総悟に、そういえば笑っているところは久しぶりに見たとじっと見つめていると、先程まで普通だったのが突然大きく咳込みだした。声をかける間もなくごほ、と体全体を揺らし、見たことのない総悟の姿に俺は動くことができない。しばらくそれが続き、止んだと思ったらぴちゃ、と水音が鳴る。大丈夫かと、何事かと声をかけるために口を開いたと同時に、息が止まった。 「あーあ、見られちまった」 手のひらにこびりついた赤が視界に入る。苦笑いを浮かべる総悟は手慣れたように部屋からちり紙を持ってきて何もなかったようにそれの後処理をした。俺が声を出すことができるようになったのは、すべてが終わりまた全部が元通りになってから。 「総悟」 「なんですか?」 「おまえ、」 今までは、近藤さんのように心配したことなんてなかった。けれど、目の前で事実を突きつけられたら動揺せざるを得ない。指に挟んだままの煙草がほとんど灰になってしまったが、そんなことに気を配る余裕もなかった。 「おまえ、死ぬのか」 「……ばかですね、土方さんは」 死ぬわけないでしょう、と言っていつものように不敵に笑う総悟。しかしそれが、俺にはあまりにも弱く見えたのだ。 ――――― |