また会えたね | ナノ


「殿」


数百年と見ていなかった姿はあの頃と何ら変わりはなくて、少しだけ変わったといえば以前よりも表情が柔らかいところだろうか。大きくて少しだけ浅黒い、分厚い手のひらが頬に触れるとそこはまるで火傷したかのように熱くなり、みるみるうちに赤くなっていくのがわかった。その様子を意地の悪い顔で見つめる左近は不敵に笑み、調子に乗ってその指をそこかしこに這わせていく。



「ばか、左近…やめんか」
「おっと、すいませんね」



まったく反省の色を見せない左近は大人しく顔から手を離したが、楽しそうに微笑むことはやめない。会わない間に随分と強気になったもんだと少しばかりむっとしたが、それでも嫌悪感はなくむしろ好意的な自分がどこかにいた。結局、また会えたことが何よりの喜びなのだ。しばらくじっとみつめられ何事かとみつめかえすと、左近もまた嬉しそうに口を開く。



「殿が、あまりに綺麗になったもんだから」



奴は、こんな甘い台詞を吐くような人間だっただろうか。途端に恥ずかしくなり思いきり顔を背けるとそっと体を引き寄せられ、大きな腕にすっぽりと収まる。体温と匂いが相俟ってだんだん力が抜けていく。完全に身を任せた状態で目を閉じると、耳元に小さく呟かれた、迎えに来たよ。
こうして迎えに来てくれた左近は、寒くて凍えそうな大地に自分を置き去りにしてなんかいなかった。収まった腕の中は暖かく、あの辛い記憶が箱の中に仕舞われていくのがわかった。もう、ひとりきりじゃない。




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関ヶ原より時を越えて