なくしたもの | ナノ


言葉にすることはなくとも共に散ることができればとどこかで思っていた。互いに互いの左胸を貫いて静かに口付けを交わすことさえできれば充分で、更にきつく抱き締め合えれば満足だった。流れる赤と赤が混ざりあってひとつになる、それを望んだのは自分だけではなかったはずなのに、眼前には何とも同化できなかった赤がぽつりと、哀しく横たわっていた。



「元親」



周りには何もなくただ一人、自分だけが静かにその肢体を見下ろしている。足が動くことはなく、縫い付けられたようにただそこに佇んでいた。名を呼べば目を細めくしゃりと微笑んだ顔はぴくりともせず、ただでさえ白い肌が余計に白く光っている。涙が出ることはなかった。胸が軋むことも、体が震えることもない。息も詰まらず、力も抜けず、体温が下がることも、何もかもがなかった。いつもと同じ自分がそこに立っているだけ。彼奴が最後に発した言葉は、一体なんだっただろう。

唯一あった変化と言えば、世界の色がなくなったことくらいだろうか。




―――――――――
さよならさよなら