あいをこめて | ナノ


遠いどこかの国では、バレンタインデーに男から女へ花を贈るらしい。なんの種類だとか、何色がいいだとか細かいことはよくわからないが、花を贈るという行為だけはざっくりと知っていた。きっと今頃、俺のすきな人は一生懸命チョコレートやらなんやらを作っているんだろう。なんとなくではあったけれど、財布をもって部屋を出た。花なんか買ってもあいつの家にはたくさんの花が咲き誇っているからうれしくなんかないかもしれないけれど、俺が渡したいだけの自己満足で花屋を訪れた。来たものの何を買えばよいかわからず、とりあえず適当なものを手にしてそこをあとにする。買ったのは桃色の、あいつに似合いそうなきれいで可愛らしい花。これを渡したら、喜んでくれるだろうか。





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燐は料理が上手だ。それに比べて私はへたくそで、私が作ったものよりも燐が自分自身で作ったもののほうがおいしいかもしれない。それでも気持ちを込めて何かをあげたくて、結局諦めず作ることにした。何回も焦がしてこぼして時には割ったり破いたりしてすごく大変だったけれど、しばらくしてやっとそれなりのものができた。その頃には台所もぐちゃぐちゃできっとお母さんには怒られちゃうだろうけど、それでもよかった。燐がおいしいと言って笑ってくれるなら、私はそれで満足だ。今、彼は何をしているだろう。これを渡したら、喜んでくれるかな。





あいをこめて




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ハッピーバレンタインイブ