ただ一人だけを見つめていた自分の目はいつからかその隣だけを捉えるようになっていて、けれどそれを認めるわけにはいかなかったからすぐ視線をそらすようにしていた。何度も何度も繰り返すうちに今度は彼からの視線に気付く。私はそらしてばかり、彼は一度もそらさない。少しでも交わりそうになったら動けなくなりそうで、あからさまでもすぐに背けた。私は何も知らないフリ。 「ナタリア」 初めの頃に呼ばせた名もしっくり来るようになった。この頃はまだ私と彼は普通で、まさかこんなことになるとは夢にも思わなくて、私はルーク、アッシュだけをずっと見ているものなのだとずっと思っていた。たった今こんな状況に追い込まれるのも、予想していなかった。 「ガイ、離しなさい」 「嫌だと言ったら?」 「無理にでも振り払います」 思いきりよく出ないと揺らいでしまいそうで、気を強く持った。ぎりぎり視線を合わさない程度に顔を上げて、それでも彼の碧い瞳は見ない。壁際に追い込まれた今、出来ることといえば説得するか暴れるか。暴れても力で押さえつけられるのは解りきっていたから、言葉でどうにかするしかない。 「ガイ、お願いです」 「じゃあ俺からもお願い」 「…え?」 「俺を見ろ」 吐息がかかるくらい顔を近づけられて動くことができない。強く目を瞑りどうして、と呟くと遮るように唇を塞がれた。苦しくて息がしづらい。こんな筈じゃなかったのに、何故私は今、彼とキスをしているのか。知らないフリをし続けるには無理があるのか。衝動的に目を開くとついに視線がかち合った。綺麗な碧い瞳。 「あ、ガイ…」 「やっと、…見た」 何がなんだかわからないまま彼に閉じ込められて、他のことを考えている余裕なんてなかった。これでもう認めるしかなくなった。私は姫でもなんでもなくて、ただ一人の女として、ガイが好きになのだ。ずっとずっと前から。 ――――― 女性恐怖症なんてなかった |