call my name | ナノ


「陛下っ…!」
「……」
「陛下、痛いです、陛下!」



任務を終えて城へ戻れば突然腕を強く引かれ、何事かと思えばこの国の王が自分を無理矢理連れ去るではないか。周りには多くの兵士がそこにいて、自分たちの様子を驚いたように見つめている。一体どうしたのかと問われても、自分も状況をうまく把握できていないのでその問いに答えることはできない。ぎりぎりと彼の指が手首に食い込み、力が入りすぎて握られた箇所は白く染まっていた。どこか焦っているようで落ち着きのない陛下は結局彼の私室にたどり着くまで一言も言葉を発さず、自分の言葉に耳を傾けることもなかった。



「へ、いかっ…」



ベッドの上に放り出され彼の視線に全身が拘束される。ベッドが柔らかいおかげで痛くはなかったが、そのせいで未だに離されることのない手首の痛みが目立った。見下ろす瞳は冷たさを孕んでいたがそこに感情というものはなかった。彼に何があったのかはわからない。自分のいない間に何か気に食わないことがあったのかもしれないし、ただの気紛れかもしれない。無言のまま彼は顔を近づけ、耳元に唇を寄せた。掠めるようにかかる吐息がくすぐったくて体を捩ると、逃がさないと言わんばかりに言葉を吹き込んだ。



「リイン」



それは形のない、原型を留めない拘束具だった。耳朶に噛み付き、首筋まで下がりそこにも強く噛み付く。赤い傷痕をいくつも残し、その中にいくつも別の赤を散らせた。


「あ、陛下…」
「違うだろう、リイン」
「や、」
「俺の名を呼べ、リイン」



真っ直ぐ、時折揺れる視線が抵抗することを許さない。いつの間にか手首は解かれていて、それでも動くことはできない。寝転んでいるせいで真横に流れる涙が鬱陶しくて仕方なかったが自分で拭うことも出来ず結局彼の指によってそれは途切れた。その動作ははやくしろと急かしているようにも思え、震える唇をどうにかして開き、小さく、けれど確実に相手に届くように彼の名を呼んだ。


「アースト」



満足げな顔をして、彼は目尻にそっとキスをしてから部屋を出た。鎮まらない鼓動をどうにかしようと大きく息を吸い込むが逆効果で、今いる場所がそれをさせてくれない。諦めて力を抜き、思いきり体を沈めて目を閉じた。これはきっと、気紛れだ。




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