「ねえさん」 同じような髪の色、目の色。背はまだわたしの方が高いから、視線を自然と下に向けてしまう。まだあどけないこの少年の名は、エミリオといった。正真正銘、血の繋がったわたしの弟だ。拒絶も強がりもない声色に涙腺が緩んだが、なんとかこらえて笑って見せた。 「どうしたの?」 「ねえさん、ぼく、夢をみるんだ」 「夢?」 「くらい、洞窟のなか」 彼は暗い洞窟の中で一人、何かを覚悟して剣を握っているのだという。そしてその続きを見る前に目が覚める。わたしはそれでいいと思った。何も思い出さず、つらい気持ちを味わうことなく生きていってくれれば、それでいい。彼はきっと後悔なんかしていないだろう。それでも、悲しくて苦しい結末をエミリオが知る必要はない。だからこれでいい。 「ぼく、その夢きらいだ」 「…どうして?」 「だって、こわくなるから」 「怖くなる?」 「…ぼく、ふるえてるんだ」 彼の剣を握る手は、震えていた。落とさないように強く握りしめて、大切なものに切っ先を向けた。その事実に息が止まりそうになって、涙を流していることにさえ気づかなかった。 「ねえさん、どうしたの?」 「…ごめんね」 「え?」 「ごめんね」 戸惑うエミリオを抱き締めて同じ言葉を何度も繰り返した。エミリオは彼じゃない。そうわかっていても、わたしは泣きながら彼に謝った。エミリオに、もう会うことのできない彼の姿を重ねて。 わたしの弟は、リオンじゃない。 ────── 前世 |