「や、坊…!」 「…すまんな」 必死に手を伸ばしても届くことはなかった。 ぴぴ、というアラームの音で目を覚ました。起き上がったとき自分の体は汗だくで、あの時の出来事は自分の中ではまるで悪夢として成り立っているようだった。水を飲もうと立ち上がったとき、外が雨だというのに気がついた。確かあの時も雨だったなあとぼんやり考える。それはもう、ずいぶん前の事だった。僕は突然、坊に別れを告げられたのだ。僕のそばには坊しかいなかったわけだから、それは必然的に一人になるということで。真っ先に捨てられたのだと思った。 「はやいなあ…」 それからは一度も、坊と会ってない。住所も番号も何もかも変わっているかもしれないし、変わっていないかもしれない。もしかしたら結婚とか、子供がいる可能性だってあるのだ。たかだか昔付き合っていただけの幼なじみが今になって目の前に現れたら迷惑だろう、という言い訳を自分の中で完結させて、ほとんど空っぽの冷蔵庫を開いた。しばらく経っても消えないこの未練がましい僕の気持ちは、いつになったらこの冷蔵庫の中で固まってくれるだろう。ペットボトルを取り出してすぐに扉を閉めた。外はまだ、雨だった。 ──────── 本当に捨てられた |