哀れだと言っておくれ | ナノ


「な、出雲ちゃん。これもらって」
「…何よ、急に」


志摩が差し出したのは、白い花弁を持った可愛らしくて小さい花。わたしには決して似合わないであろう、真っ白な。


「…もらってほしい子に、受け取ってもらえなかったんよ」
「ふうん。…わたしはその子の変わりってわけね」


それなら合点がいく。わたしに見向きもしない志摩が、突然わたしに花を贈るなんてあり得ないことなのだ。自分で発した言葉に胸がきしりと痛んだが、それをなかったことにして花を受けとる。今目の前で、この白い花弁たちを握りつぶして踏み潰したら志摩はどんな顔をするだろう。怒るか、悲しむか、失望するか。正直どれでもよかったが、わたしがそれを行動にうつすことはなかった。


「礼は言わないわよ」
「おん。ありがとさん」
「……」


彼は残酷な人間だ。わたしが彼を慕っていると知りながら、中途半端に突き放したと思ったらこうして手元に引き寄せる。そうして思い知らされるのだ。彼が、志摩がわたしに振り向く可能性なんて、これっぽっちもないってことに。

きっとわたしは、わたしじゃない人間のもとに渡るはずだったこの憎らしい花を、捨てることも散らすこともせずに花瓶にいれて、大事に大事にするんだろう。去っていく志摩の後ろ姿に溜め息を吐いてから、わたしもくるりと背を向ける。白くて、わたしには似合わない花をしっかりと両手に持って。








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title:環