少し前に買ってそのままカバンの中に放置していた赤のマニキュアを見つけ、一体どうしようかと思考を巡らしていたら突然奪われたそれ。腕が伸びてきた方向を見るとじっとそれを見つめているやつ。 「ちょっと、何すんの」 まだプラスチックの包装を解いてすらいないそれ。雑誌を見て惹かれ買ったのはいいが、如何せん私は不器用なのだ。あの綺麗なモデルのように自分でうまくできるとは到底思えない。だからといって人に頼むのも申し訳ないので、結局このマニキュアは行き場を失ったまま。 「出雲ちゃんはこれ使わんの?」 「…自分でできないのよ」 「そうなん?折角きれいな赤やのに、勿体ないなあ」 出雲ちゃんにすごく似合いそう、なんて呟かれたってなにもでない。どきっとしたのが癪に障って、とことん可愛げのない自分は思いきり眉を潜めた。顔は赤くないはず。私は本当に可愛くない。 「なあ、出雲ちゃん」 「…なによ」 「これ、僕が塗って差し上げましょうか?」 名案だとばかりの表情をするやつに思わず小さく頷いたのは、似合いそうと言われたからではない。手を取られ、ゆっくり進む作業をじっと見つめる。赤のインクを含んだハケが私の爪に当たるのがなんだかくすぐったい。真剣な顔で塗り続けるやつは本当に器用だと思う。女の私なんかより。 「ほい、終了」 先程とは見違えるほど綺麗になった私の爪。やつの触れていた手のひらが熱くて火傷しそうだけど、気にしない。しばらく真っ赤な爪を見つめていると、ぽん、と頭におっきな手が乗った。 「やっぱり、似合う」 「…ありがと」 「ええよこのくらい」 お礼の言葉ににやつはにっこり笑って、指を掴んで爪先にひとつキスをした。その瞬間体にぶわっと鳥肌がたつ。何、いまの。爪と同じくらい赤くなった顔を見られたくなくて、私は思いきりうつむいた。 「かわええな」 ああ、こんなの私じゃない。 ────── 2人は付き合ってないです |