魅惑のくちびる | ナノ


告白は俺から。私も、と言ったのはあっち。デートしようと誘ったのは俺からだったけど、手を繋ぎたいと提案したのはあいつだった。悶々と考えて、やっぱりキスは俺からするべきだろうと思った。男だし、何よりプライドが許さなかった。しえみの唇はやわらかそうだ。いつでも艶々光っていて、無意識に俺を誘っていた。それをみていると吸い込まれてしまいそうになる。無条件に、食べてしまいたい、という俺の欲望が顔を出すのだ。



「しえみ」
「なあに?」
「……なんでもねぇや」



燐、と俺の名前を紡ぐ唇を、ふさいで息もできないくらいに飲み込んで、溶けてひとつになれたらいいのに。まだ欲は出さない。我慢して我慢して、そのときになったらじっくり味わって、おいしくいただくから。それまでお預けだ。



「り、燐?」
「あ?」
「近い…よ?」



お前が誘うのが悪いだろ、なんて言ったら、どんな顔でどんな言葉を返してくれるだろう。そんなことを考えながら、悪いと謝って顔を離す。そのときにしえみが残念そうな顔をしていたのは、きっと俺の見間違いだ。



食べられるのもそう遠くはない






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