午前5時 | ナノ


私の夢の中で、燐はいつも歯をくいしばって静かに静かに泣いているのであった。「どうしたの」と問うても、口を開けば嗚咽が漏れるのか、それを恐れて決して口を開こうとはしないのであった。燐といってもそれはいつも私が会っている燐ではなくて、その燐よりもひとまわり小さな、幼き日の燐がそこにうずくまっているのであった。手を差しのべるとはねのけられるのがわかっているので、私は燐の目の前にしゃかこんで、その様子をじっとみていることしかできないのであった。


ぱちり。


目を開けると至近距離に燐の顔があったので驚いて思わず「うひゃ」なんて声を上げてしまい、燐は起きたのではないかとひやひやしたが、心配なかったみたいだ、今、私の目の前にいる燐は、泣いている様子もなくただすやすやと眠っているだけ。夢の中にいる燐は、いつもひたすらに泣いているだけ。「どうして泣いているの。」目を瞑る燐に問うても返ってくるのは寝息ばかりで、それは何の役にもたたない。眠っている燐に対しても、泣いている燐に対しても、私ができることは何一つないのだ。できるのは、触れるでも、声をかけるでもなく、じっと見つめていることだけ。私は彼に救われているというのに。私は酷く、そして非力だ。とごちてみる、春の夜明け。




こうして嘆いてもこの心の内は吐き出せずにただ燻るばかりで、結局なにもせずにまたあの夢を繰り返しみるのであった。