とんとんとん。規則正しく聞こえる包丁の音で目を覚ます。カーテンの隙間から漏れる光が、今は朝だと告げていた。気だるい体を無理矢理起こし、部屋を出てキッチンへ。 覗く後ろ姿に頬が緩む。よくわからない鼻唄を歌っているが、それすらかわいくていとおしい。ばれないように足音をたてず、ゆっくり近付いて細い腰に腕をまわした。 「ひょわっ」 「んはは、朝から元気なのな」 「び、びっくりしました…」 驚かせてから、昔とは違って短く切った髪から見える首筋に顔をうずめる。そのあと、こめかみに音をたててキスをした。それに耳まで真っ赤にする俺の奥さん。何度も何度も繰り返している行為なのに、未だに馴れない初々しさもプラス。俺はこの人に溺れているのかもしれない。 「なにするんですかっ」 「なにって、ちゅう?」 「ちゅうじゃなくてっ!」 「んはは。なあ、ハル」 「…なんですか」 「おはよ」 ─────── そのあと今度は唇にちゅうしました |