「坂田くん」 靴を履き替えようとしたとこで声をかけられた。振り替えるとそこには先程まで同じ空間にいた担任の志村先生。綺麗で優しくてちょっとだけ厳しい、生徒に人気の先生だ。この場にいるのは俺と先生だけ。ここまでは計算通り。 「なんすか?」 「坂田くん、進路希望白紙だったわよね。ちょっときてほしいんだけど、いいかしら」 「え〜、ドラマの再放送…」 「きなさい」 「はい」 これも思った通り。そのまま先生につれてかれたのは、国語教科室。またの名を志村先生の城。ここの部屋を使っているのは志村先生だけらしい。これは好都合だ。先生と向き合って座り、そのまま面談が始まる。目の前に座る先生は、とても綺麗だ。みんなが好きになるのもわかる。 「坂田くん、なりたいものとかない?」 「ないっすね」 「じゃあ、行ってみたい大学とか」 「特には」 「興味のあることは?」 「んー、」 悩むフリをしながら思考を巡らせる。このタイミングでいいか。我ながら策士だと思う。一緒にいる友達にもよく言われるんだよな、性格悪いって。だけど、俺は欲しいもんは絶対に手に入れたい人だから。他の奴には渡さない。 「先生」 「え?」 「先生に興味ある」 正直に告げると、先生は目を丸くする。何か言葉を発する前に、距離を詰めなければ。普段は頭を使わないのにこうゆうとこでだけ、ずるい男。ゆっくり顔を近づけて、耳元に持っていく。熱い吐息を耳に吹き掛けて、低めの声で囁いた。 「先生。俺実は、一個だけなりたいもんあるの」 「坂田、くん」 「あのね」 「先生の、だんなさん」 なんてね。 「ね、せんせ」 「あ…」 「ときめいた?」 俺の大事なせんせい ─────── その後坂田は国語教師になります |