とろけあう指先は凶器 | ナノ



大人になっても自分たちは変わらないし、変わるつもりもないと言ったのは一体どちらだったか、そんな昔の話はもう殆ど覚えていないが記憶の片隅に少しだけこびりついて、それでいて離れない。仕事を終えた俺の部屋に我が物顔で居座っているのはあの時からちょっとだけ背の伸びたジロー。目線が近くなったことに対して抱いていた違和感は既に消え去り、目の前のジローが俺の中のジローで、こいつの瞳に写っているのはあの頃からそんなに変わっていない俺。


「あ、おかえり跡部」


こちらに近寄り小さくキスをした後味はほんのり苦くて、テーブルに目を向けると灰皿には押し付けられた煙草があった。多分、俺が帰る前に吸っていたんだろう。俺はその味がどうしても苦手で手を出さなかったが、ジローはどうやら気に入ったようでそれなりに吸っているみたいだ。俺の前では気を遣っているのか、まったく吸うことはないけれど。


「今日も疲れた?」
「ああ」
「そっか。じゃあ、充電してあげる」


そんなのは口実でしかなくて、ただ単に俺を抱き締めたあとに体に手を這わせ首筋に顔を埋め、そのまま行為になだれ込みたいだけなのは知っている。流されてからは風呂へと連れ込まれそこでも泣かされ、そのあとに寝室へ向かいもう一回。会う度にこんなことをされたらいくらなんでも慣れるだろう。

今日もいつものように流されたあと、隣で静かに眠るジローを見て一人考える。ジローは、何を考えているのだろう。いつからだったか、この男の考えていることがわからなくなってしまった。キスを交わし会っては抱かれ、眠りについたあとに朝を迎えそのままさようなら。次に会えるのはいつかわからず、ジローの気が向くまで会うことはない。女のように素直に自分の思っていることを口にすることもできなくて、募る不安感に体が支配される。俺とジローは、一体なんなのか。自分自身にもわからない。


「あれ、…跡部?」
「…どうした?起こしたか」
「ちがくて。…跡部、泣いてるの?」


泣いてなんかいないと言おうとしても声にはならず、代わりに息だけを吐き出して口を閉じる。もう一度開いたら戻れないような気がして、首を小さく振って手のひらを思いきり握った。放っておいてくれればいいのに、ジローは泣かないで、と瞼の上にそっとキスをする。俺はそんなお前がものすごくすきだというのに、それでいてものすごく苦しいんだよ。





――――
なんて女々しいんだ