君は特別だから飴をあげる | ナノ




美術部は幽霊部員が多い。多いといっても来ている人も数人いるので、活動はきちんとしている。わたしもそのうちの一人で、今はコンクールに向けて絵を描いているのだがどうにもいいアイデアが浮かばない。考えても何もでないなら仕方がないと、わたしはスケッチブックと鉛筆を放って今日出た課題に取り掛かることにした。普段は何人かは部活に顔を出すのだが、珍しく今日はわたし一人だった。いつもわたしと一緒にいるメアリーも今日は用事があるとかでおらず、明るくて活発な彼女がいないせいか広い美術室がやけに静かに感じた。


「あら?」


目の前の問題に格闘していると、扉のほうから聞きなれた声がする。それに反応するように扉の向こうを見ると、外はすでに暗くなっていた。メアリーから、暗くなる前にちゃんと帰らないとだめだよ、って言われていたのに、彼女に知られたらきっとものすごく怒られる。集中するといつもこれなのだ。これは、彼に口裏を合わせてもらうしかない。


「まだ帰ってなかったの?」
「ん、ギャリー」
「こら、学校では先生って呼ばなきゃダメよ」
「ごめんなさい」

ギャリーはこの学校の先生で美術部の顧問をしている、わたしの小さいころからの知り合いだ。わたしはギャリーのことが大好きだけどメアリーは違うらしく、彼女はギャリーのことを毛嫌いしている。なんでも、わたしと昔から仲がいいのが気に食わない、とかそんなことを言ってた気がする。それをギャリーは軽くあしらっていて、そんなところがまたむかつくらしい。わたしからしたら2人はすごく仲良しに見えるのだけれど、それを言ったら全力で否定された。

「まだ帰らないの?」
「ううん、帰る」
「もう夜遅いし暗いから、送っていってあげるわ」
「やったあ。残っててよかったかも」
「まったくあんたは…」
「ねえ、メアリーには内緒にしてね」
「仕方ないわねえ」


ギャリーと2人で楽しく帰ったなんてメアリーに知られたら、きっと怒って拗ねてしばらくしたら泣き出したりしちゃうかもしれない。車の中でご飯に招待されて、そのままギャリーの家でご飯を食べてお泊りまでしたなんて言ったら、きっととんでもないことになる。全部を全部2人だけの秘密にして、手をつないでわたしはこっそり笑った。結局のところ、わたしはギャリーのことが大好きなのだ。



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