奏でるのは可愛い偽善 | ナノ



きっと本人は気づいていないが、仕事中だろうがなんだろうがあの男は熱心に自分のことを見つめている。やるべきことが終わり部屋へ戻る前も寂しそうな目をこちらに寄こし、切なそうに背を向ける。その健気でいじらしい様子が、ひどく自分の加虐心を助長させた。懸命に自分を見ないように考えないようにしているのだろうが、その努力もむなしく本人の自覚していないところで裏目に出ているのだから、そんな愚かしさでさえもなんだかいとおしいものに思えた。執務をすべて終えたその日、男は何かしらが溜まる生き物なので定期的に発散しなければならない。女を呼び懐に抱え込むと一気に行為へと雪崩れ込むわけだが、しばらくすると扉の前に人の気配がする。誰が、というのはもちろんわかっていて、それでいてわざと女を思い切り突き上げその行為をやつに知らしめる。大概自分も性格の悪い男だ。夜が更けて次の日になれば、あいつはまた普段どおりを振舞って周りには変化を感じさせない、けれど俺には隠し通せない劣情を必死にばれないようにしながら、同じように普段どおりを振舞う自分に強く歯を食いしばっているに違いない。ひどく滑稽なその姿も、自分にとってはかわいらしく愛らしいものでしかなかった。



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