奏でるのは可愛い偽善 | ナノ



ここ数日、陛下を避け続けている。仕事をしていないわけではない。むしろ、仕事しかしていないと言ったほうが正しい。執務に私事を持ち込まず、やるべきことだけをこなし、彼との接触をできるだけ控える。
終わったらすぐに部屋へ戻り鍵をかけ、外界をすべて遮断した。けれど、自分の空間にいても心は休まらない。目を閉じても開いていても、考えるのは陛下のことばかり。そんな自分が嫌でたまらなくて、それでも考えてしまう悪循環。何気なく通った彼の部屋の前、中からは甲高い女の声、煩わしい女の声、歓楽に溺れる女の声。彼の様子は、何もうかがえないが、彼はきっと自分の存在に気づいている。気づいていてわざとやっているのか、それとも顔に似合わず天然なのか、どちらにしても振り回されているのは自分で、勝手にいらついているのも、忘れられないのも自分だけだった。次の日の彼は何も知らないような顔をして黙って仕事をしているから。その事実にまた歯を食いしばりながら、陛下とはあまり関わらずまた仕事に没頭する。無意識に彼に振り回される自分がひどく滑稽だと、そう思った。


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