prologue | ナノ




ある一人の男に、神様は言いました。
「好きなものをなんでもひとつだけくれてやろう。金か、女か、名声か」
男は答えました。
「それでは神様、ひとつだけ」
「言ってみろ」
「私は、愛がほしいのです」
神様は首をかしげました。目を細めて思案したようですが、神様は男に問いかけます。
「あい、とはなんだ」
「神様は、愛を知らぬのですか」
「それは食物なのか。それとも道具か」
「いいえ、違います」
「ではなんなのだ」
「愛には、形がありません。色も、匂いも、用途もない」
神様は怪訝な表情で顔をしかめました。
「何故そのようなものがほしいのだ」
神様が今まで出会ってきた、人、という生き物が欲したのは、大抵は金や名誉などの欲にまみれたものばかりでした。初めてのことに、神様は戸惑います。
「愛とは、素晴らしいものなのですよ」
「そうなのか」
「はい、神様。どうか、私に愛をくださいませぬか」
神様は悩みました。愛というものを知らない自分が、人にそれを差し出すなんてできない。神様は考えました。
「…待っていろ」
「はい?」
「私は愛を知らぬ。だから、探してくるのだ」
「神様…?」
「好きなものを、なんでもひとつくれてやると。そう約束したのだからな」
神様が約束を破るわけにはいきません。
そうして神様は、愛を探す旅に出たのでした。