僕の小さな祈り | ナノ
現パロ


彼女が自分の弱さを女という仮面で隠していることに気づいたのはいつだっただろう。ジュダルからの暴言で小さく顔を歪めたときだったか、それとも白龍からの冷ややかな視線で俯いたときだったか、どちらにせよ彼女はうまい具合にその些細な感情の揺らぎをうまくごまかしていた。大会社の社長令嬢という立場らしく、その権力と財力を見せつけるかのように派手な衣服と装飾品を身に纏う彼女は、俺の前ではただの同世代の女の子になる。別に互いが互いを想い合っているわけではない。俺たちは仲の良い友達。それ以外はなにもなかった。ただ俺が、弱い彼女の強がりに気づいてしまっただけ。


「何を考えてるの?」


声をかけられてはっと気付く。あまり頭のよ良くない俺は、見かけとは裏腹に頭の良い紅玉に追試の勉強を教えてもらっていた。爪先まできちんと整えられた手から伸びる細くて白い指に握られた蛍光色のマーカーペンで、教科書はいつのまにかカラフルに彩られている。用途ごとに使い分けられたそれのおかげで、つまらない文字だらけの教科書はとても見やすく改変されていた。


「説明聞いてなかったでしょう、もう。追試落ちちゃっても知らないんだから」


桃色をした頬をぷくりと膨らませる彼女はとても愛らしくて、けれど俺がわざわざそんなことを言わなくてもきっと彼女は自分自身で自覚しているだろう。未だになにもしゃべらない俺を紅玉は不思議な目で見つめたままだ。丸くて大きい薄紅色の瞳は黒くて細い線に囲まれて余計に大きく見える。そのままこぼれ落ちてしまいそうだ。



「…紅玉、しあわせになれよ」


やっとしゃべったかと思えば突然こんなことを言った俺に、彼女は変なアリババ、と言って首をかしげた。いつか彼女の仮面が外れて、綿のようなやわらかい顔で笑ってくればいいと、そう思った。彼女は俺の、大事な大事なともだちなのだから。




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愛だけど恋にはならない