臆病者たちの夜 | ナノ


「おやすみ、ロイドくん」


ゼロスはそう言って静かに部屋の扉を閉めた。彼が俺と一緒に寝なくなったのはいつからだっただろう、以前は嫌がっても無理矢理ベッドの中に入り込んで来たというのに、近頃めっきりそれがなくなった。寝る前までは俺の部屋で共に過ごし、寝る時間になるとそっと立ち上がって部屋を出ていく。一緒に寝ないのかと尋ねても困った顔をして小さく頷くだけ。彼のしたいことが、俺にはよくわからなかった。ただわかるのは、俺と距離を置きたがっていること。それだけは確かだった。もしかして、俺のことが嫌いになったのだろうか。それだけはないと今まで首を振ってきたが人の心は他人にはわからない。ハニー、ととろけるような笑顔でそばにいてくれたのも、随分と前の話だ。雪崩のように負の感情が押し寄せてくる。俺はいったい、どうすればいいんだろう。




「…ロイド」


遠くから小さな声が聞こえた。気づいたら眠ってしまっていたようで、身動ぎはせずにそのまま瞼だけを持ち上げる。どうやら、そこには誰かいるようだった。いや、誰なのかはもうわかっている。ゼロスだ。俺の今の、悩みの種。彼は何かをするわけでもなく、ただベッドに背を預けて床に座っている。俺が起きていることには気がついていないだろう。そのまましばらくじっとしていると、突然ゼロスがこちらを向いた。慌てて目を瞑ると、彼のひんやりとした手のひらが俺の頬に触れる。やさしく、たまに指でなぞりながら。



「ねえ、ロイド…」


その瞬間、小さな小さな声と共に頬にやわらかいものが触れた。何が起きたのか最初はわからなかった。音が聞こえてしまうと不安になるくらいに心臓がはねる。痛い。それ以降ゼロスが口を開くことはなく、何もなかったように彼は部屋を出ていった。俺の心に大きなわだかまりを残して。


「なんだよ、それ」


小さな呟きは誰にも聞かれることはなく、ただ暗い部屋に溶け込んでいった。好きならどうして、俺と一緒にいてくれないの。そうやって彼に聞く勇気は、残念ながら持ち合わせていない。直接愛を囁けない彼も、怖がって聞かなかったふりをする俺も、とんだ臆病者だ。



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シンフォニア10周年おめでとう