掃溜 | ナノ



▽◎





「どこ行ってたの?」
「別に、どこにも」
「…そう」


いくら本当のことを言っても疑わしい目で俺を見つめる彼女を憎らしいと思った。それと同時に愛らしいとも思うのだから、人とはよくわからない生き物だ。彼女はおかしくなってしまった。寝てもいないのに寝ていただとか、食べてもいないのに食べていただとか、嫌いじゃないのに嫌いなんだろう、とか。彼女が見ているものは明らかに俺ではなかった。心の中では嘘つき、と罵られているのかもしれない。それでも俺は冷たい反応しか返せなくて、疑われるのも無理ないな、とどこかで感じているのも確かだった。


「どこ行くの?」
「どこも行かねえよ」



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