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「間違ってんで」
「…え?」
「ここ。てかこの問題やと方式自体使わん」
ここ、とシャープペンシルの先で指しながら隣の一氏君は呟いた。
今は数学の授業中。教科書を忘れたから見せてくれ、と一氏君が言ったので机をピッタリくっつけている。こんな至近距離で彼の横にいると嬉しさや緊張が混ざり合って心臓がバクバクと鳴る。
「あ…、ほんとだ」
「因みにこれは答え合ってるけどもっと単純に解けるで」
「一氏君数学得意なの?」
「お前よりかは得意やな」
そう話すと一氏君が少し解説をしてくれる。少し耳が遠いまったりなおじいちゃん先生が黒板で数字の羅列を書いていく。その姿をちらっと見て一氏君の声に耳を傾ける。
隣の席だが普段あまり話さない一氏君。その声や仕種、そして指先に見とれる。ああ、こんな字を書くんだあ…。白く品やかな指先は到底スポーツマンに見えない。その横顔だって端正でかっこいい。その姿に目を奪われるとパチッと目が合った。
「お前聞いてるか?」
「えっ、う、うん!」
「絶対嘘やろ。目泳いどる」
「そお…かなあ?」
「お前って核心突かれるとキョロキョロするよな」
フッと目を細めて笑う一氏君。そんな優しい笑い方を見たのは初めてでまたもや目を奪われる。普段は意地悪で少し見下した笑い方をするが、こんな笑い方もするんだなあ。そう思うと胸がキュッとなった。
「お前って見てて飽きんわ」
「ん?」
「まあええわ。この問題解いてみ?特別見といたる」
私と一氏君はただのクラスメイト。たまたま席が隣同士で彼が教科書を忘れただけ。少ししか話したことがないけど、そんな彼に私はどうやら、恋をした。
恋模様と数式。
初々しい風景を書いてみました。拍手ありがとうございます!
20110208