千歳Birthday | ナノ


冬の誘惑



千歳の隣にいるようになり、何度目かの冬がきた。冬は寒くて嫌になっちゃうけど、クリスマスにお正月、そして千歳の誕生日もあるから大好きだなあ…、なんて思ったりする。


それに冬のごはんは美味しい。お鍋におでん、そしてお正月のお雑煮が美味しくて幸せになる。横に千歳がいると、もっともっと美味しくなるし幸せになる。


でも、この冬が来るその度に私は思う。私はこのままだと駄目かもしれない。




「うーん……動けないよ」
「俺もばい」
「今日は特に寒いね」
「天気予報通りばい」
「お天気おねえさん?」
「おにいさんばい」
「ふーん」



たわいない話。一人暮らししている千歳のアパートでまったりとする優しい時間。外からは風の音がピューピュー聞こえる。その音だけで更に寒さが増しちゃうよ。


だけどこの部屋は暖かい。エアコンを開発した人は凄いと思う。そして何よりもこの子が凄い。もう最強過ぎるよ、この子。



「…あたたかー」
「もう抜け出せないよ」
「こたつは最強ばい」
「ほんと最強だよ」



そう、この子とはこたつのことである。千歳の家に来てからというもの、このこたつから私は歩いていないと思う。お邪魔しますと言った時にはこたつに潜った私。もちろん千歳は私が来る前からこたつに潜りっぱなしである。



「そういえばこの間アイス買ったよね。まだ残ってる?」
「残ってるとよ」
「食べよーっと!千歳は?」
「食べるっちゃ」



そそくさと冷蔵庫に向かってお目当てのアイスを取るとこたつへ直ぐさま戻る。うー、ちょっとこたつを出ただけで何だか寒いよ。



「はい」
「ん。ありがとう」
「冬に暖房ガンガンの部屋、こたつにアイスって贅沢だよね」
「ははっ、ほんまったい」
「ほんまったいねー」



ふわふわでちいさな白いアイスを食べる私たち。ああ…本当に幸せ…なんて優雅な休日だろう。



「顔ゆるんでるとよ?」
「千歳もね」
「ん?そげか?」
「その体制もゆるゆるだよ」



大きな体がきゅっと縮こませて机に顎を乗せている。おまけに背中も丸くさせほわわんと幸せそう。だけどだらけ過ぎだよ。


そんな私もすっぽり首まで布団を被りぬくぬくとアイスを食べている。最近は寒いからってデートらしいデートもせずお家に引きこもってばかり。こんなんでいいのかな私たち。いや、むしろ私。そういえば最近肉付きもよくなったような……。



「今日は寒か。外に出るん億劫になるばい。夕ご飯はピザ頼みなっせ」
「うん、わかった。……いや、こんなんじゃ駄目だ私!」
「…ん?」
「駄目だよ千歳!こんなの不謹慎だよ!若者は若者らしく外に出なくちゃ!」
「どげしたとね、いきなり」
「駄目ダメ…、こんなんじゃプー太郎になっちゃう…」
「へ?」
「ぷくぷく真ん丸になっちゃうよ私!」



そう、こんな生活したら心も体も太っちゃう!ぬくぬくと幸せな日々もいいけど、少しは外の寒さも実感しながら「寒いね」なんて喋りながら身を寄せて街を歩かなきゃ!こんな生活、まるでおじいさんとおばあさんだよ!



「ちーちゃん!今から夕ご飯のお買い物行こう」
「ええー…寒か」
「だーめ!たまには外の空気を吸わなくっちゃ。テスト期間だからってお家に篭りっぱなしでしょ?」
「……わかったばい」



しぶしぶそう承諾するもなかなかこたつから出て来ない。その間に私はコートを来てマフラーを巻き身支度をする。火周りも確認したし…よし完璧!



「ほら、行くよ?」
「んー…あと5分」
「お留守番しとく?」
「……あと3分」
「へぇ…、じゃ留守番ね」
「むむっ……よっこらしょ、と。…ほれ、行くばい」



ベッド上にあった黒いコートを手に取りこたつを名残惜しげ見つめた後、玄関へ足を運ぶ千歳。



「鍋がよか。熱々の」
「そうだねぇ…鱈…カニ…牡蠣もいいなあ…」
「白石達も呼ぼうか」
「あ、それいいね!」



寒い寒いと連呼しながら近くのスーパーへ向かう。ピタッと寄り添えば目を細めてぽんぽんと頭を撫でてくれた。ああ、やっぱり冬の寒さも時にはいいかもね。





ふわふわ、幸せ。


20110122

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テーマ「人外ファンタジー」
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