千歳Birthday | ナノ
拗ねる千歳
先日パソコンというものを買ってみた。というのもこの間テニス部の連中が家に来たのが原因である。
「先輩パソないですか?」
「パソ?…ああ、パソコンのこつね?必要なか、機械苦手ばい」
「ネットせえへんの?」
「しなか」
「ふーん…でも今時パソも使えんとかダサいっすわ」
そうしれっと半ば見下したように光が言った。パソコンがあればこれも出来るしあれも出来るし〜…と話す言葉を聞き、今まで全然興味もなかったそれを衝動買いしてしまった。機械に強い光のオススメで買ったパソコン。授業以外で触れたことなかったが、ネットというのは便利だと少しだけ、ほんの少しだけ思いはじめた。
だが予期せぬ事態発生。
久々の休みで彼女のひなが家に来た。ふたりっきりになるのは久々だから、あんなことやこんなこと…いろいろと楽しもうと計画していた、のに……。
「ギターも曲もいいけどやっぱり声がいいよね…!千歳はこういうバンド嫌い?」
そうニコニコと微笑むひなに曖昧な返事をする。そう、ひなは先程からずっとパソコンに夢中なのである。音楽に疎い俺に対し、ひなは音楽が好きである。たまに部活の見学に来れば光や一氏とバンドの話をしている。
画面を見ると男性がギターを弾きながら歌っている。意味不明な歌詞をものすごく人相悪い男性が歌っていて、どこがいいのかさっぱりわからない。しかも歌も声も一氏や白石の方が良いと思う。
「このバンドは随分前に解散しちゃったんだ。でも今でも根強い人気があるんだよ?あ、今ちょっと笑った!カッコイイなあ…」
画面を見ながら微笑むひなに自分の機嫌が悪くなっていく。本来ならば今頃ベッドで仲良くしている筈だったのに…。彼女の視線はパソコンで、そんなひなを眺める自分。
(こんな筈じゃなか…)
(ひながこっちを見てなか)
(……拗ねるばい)
パソコンに夢中のひなから離れてベッドに横になる。すると物音に気付いたのかひなが不思議な顔をしてこちらへやって来た。彼女が家にやって来て、今日まともに目が合った気がする。
「どうしたの?まだ眠い?」
「眠くなか。」
「じゃあどうし、
「ひなはパソコンでも見てなっせ。俺はここでゴロゴロしとくばい」
ぷいっと顔を背く俺。その態度にやっと俺が不機嫌になっていることに気付いたひな。どうしようかとあたふたしているであろう彼女を背中に感じる。
「ごめん…、怒ってる?」
「怒ってなか」
「…拗ねてる?」
「ひなは俺に構わずパソコンに夢中になってたらよか」
「…拗ねてるんだ」
あまりにも子供っぽい態度の自分に呆れるが、それでも不満は不満。ひなの前ではどうしても普段の自分が保てない。いや、もしかすればこうやって駄々をこねる自分が本来の姿かもしれない。
「ごめん…もうパソコン見ないから、ね?」
「…俺んこつ無視しない?」
「しないよ!ってか無視なんかしてないもん!」
「……俺見てなか。パソコンの男に夢中だったばい」
「うぅ…、もう見ないよ」
「……次同じこつしたら監禁しちゃるばい」
「それはこわいよ千歳さん」
もそもそとベッドから出てソファーに座る。もちろんひなは膝の上。後ろからギュッと抱きしめるとふわっと優しい香り、そして柔らかい身体に和む。お腹にある手を上の膨らみへと手を伸ばせば「めっ!」と叩かれた。(まあ後で嫌ってほど触るばい)
「これからどうする?」
「んー、なんでもよか。ひなはどう?」
「なんでもよかー」
「じゃあこれからイチャイチャするばい」
「…まだお昼だよ?」
「時間なんか関係なか」
ちょっと頬を紅く染めてそう話すひな。その可愛い姿に興奮する自分。さっきはパソコンに夢中だった彼女に今日はちょっとだけ意地悪しようか。…そう考えるとパソコンも少しは役に立つ。
俺もまだまだ子供ばい
20101224