short | ナノ


夏休みも終わり今日から授業が始まる。とは言っても今日は3講だけで、正直行こうか休もうか考え中(だって出席取らないんだもん)。おとつい実家から帰ってきた千歳の家にずっと滞在している。こんな時お互い一人暮らしの身で良かったと思う。


「千歳は今日授業?」

「今日は3講だけばい。しかもお前さんと同じったい」

「え、そうなの?」

「履修登録のぞき見したけ、大方同じばい」

「いつの間に…あ、出席お願いしようとしてるでしょ。そんな甘やかさないよー?」

「そんなんじゃなか。ひなと一緒にいたいからばい」


そう言いながらコーヒーを飲み天気予報を眺める千歳。特に深い意味や別に狙っているわけじゃないとは分かるが、彼は時々このように嬉しいことをすらっと言う。自由人かつ放浪人の癖に一緒にいる時間を大切にしてくれる。いや、むしろそんな体質だからこそ同じ空間を大切にしてくれるのか…。


もうじき12時になる。授業が始まるまであと1時間と少し。徒歩5分で学校に行けるのに猛烈に面倒だ。それはたぶんこの時間が好きだから。二人でたわいない話をしながらゆっくり流れる優しい時間。テーブルを挟んで向かいに座っていた私は千歳の横へ移動した。頬に軽くキスを落とし、そして彼の身体へもたれた。おまけにカップを持っていない右腕をギュッと抱きしめる。


「どげんしたと?」

「無性に触りたくなった」

「ひなは甘えたさんとね」


千歳は私の頭をよしよしと撫でる。千歳の大きな手で撫でられるととても幸せな気分になる。その大きな手でラケットを握ってるのね…そして優しくしてくれる。スポーツマンとは思えないしなやかな指が大好き。


「千歳……好き」

「俺もひなのこと好いとうよ」

「そっか…嬉しい」


(ああ…好きだよ千歳。本当に大好きで大好きでどうにかなりそう)


暫くすると千歳の携帯が静寂を破った。と思えば私の携帯も鳴った。なんだろうと手に取るとメールで、ディスプレイに忍足謙也と映っている。本文を読むと『今日の7時にいつもの店で!全員集合っちゅー話や!』と書いてある。いつもの店と言うのは行きつけの居酒屋(ちなみに謙也のバイト先)。今日は飲みに行きそうだな…と思っていたが、やはり予想的中。


「7時からかぁ。行く?」

「もちろん。あっこの馬刺しは新鮮ばい。日本酒で一杯やりたか」

「…私も今夜は飲もうかな」


酒豪の千歳に比べて私は全然飲めない。どんなお酒でもすぐに顔が真っ赤になって酔ってしまう。ほろ酔いなら未だしも、以前酔い潰れて千歳におんぶされながら家へ帰ったことがある。それ以来自重しているが…なんだか今日は飲みたいな。


「大丈夫とね?」

「うーんわかんない。でも飲みたいな…。また迷惑かけちゃうかも知れないけど…いいかなぁ?」


こっそりと千歳の顔色を伺ながら言うと、困ったような…しかし優しい表情で眉を下げながら私の頭をぽんぽんとした。


「ほどほどに…な?」


今日は楽しく飲めそうだよ千歳。そうこうしている内に3講が始まっていた。うん、今日はのんびりと休もう。






きみ、そして昼下がり。


20100927