short | ナノ



笑ってくれるなら俺は何だって出来る気がした。その優しく微笑む顔が見たくて無我夢中に笑かすことだけ考えた。ボケる奴がおればつっこむ。つっこむ奴がおればボケる。小春っちゅー最高最愛の相方と出逢ってから俺はお前の為にいろいろと笑かしてきたようなもんやった。


いつの間にか小春と俺のコンビはクラスや部活に留まらず学校全体で有名になった。聞けば他校の奴も知っとるらしい。それはまあ俺らの技術からいくと納得出来るな…なんて思ったりもする。




ただ、単純にお前の笑顔が見たかった。一歩控えめな性格のお前と俺はそんなに喋らへん。でも俺が起こした言動で笑ってくれるのなら会話がなくても満足できた。繋がりは無きにしもあらず。やって俺がお前を笑かしてるから。


好きっていう気持ちに気付いたのは随分前。でも俺はその気持ちをうやむやにした。心の奥底に閉じ込めた。なんでかはわかりたくもない。だから考えんよう、感じんようその気持ちを殺したんや。


小春だけはそのことに気付いたみたいやった。俺の考えや気持ちに。そっと俺の肩に手を置いて、それでいて何も言わない。言葉なんて要らん。小春はいつも肝心なことを言わない。それは通じ合ってるから出来る技で…俺がどうしようもない時、そっと肩に手を置く。それだけで俺は涙や嗚咽が出そうになる。それでいて救われる気持ちにもなる。




ほんまに、笑ってるお前が見たいだけやった。動機は単純。笑ってるお前を見ると俺はとても幸せな気持ちになれた。




「ほな俺は先に帰るわ」

「なんやぁ?この後デートか?ったく俺らの部長は色気づいとんのぉ」

「蔵君!送り狼はアカンよー!女の子は繊細なんよ」

「んー…まあ努力はするわ。一応な?ほなひな待たせてるし行くわ」



そう言って白石は行った。暫くして後ろを振り返ると遠くで白石とお前がいた。お前はいつものように可愛らしい声で白石の名を呼ぶんやな…。そして俺には見ることが出来ない表情を白石の前ではするんやな…。




「ユウ君、行こ?」


いつの間にか立ち止まってたみたいや。前の方でいつものように謙也や金ちゃんがアホなことして騒いどる。財前もやっぱしいつものように呆れた顔でそいつらを見とる。



ふいに肩に手を置かれた。

嗚呼、やっぱし小春は知ってるんや…俺の顔を見ながら微笑む小春に俺はどれだけ救われるのだろうか。




お前の笑ってる顔が見たかった。お前が笑ってくれるんやったら幾らでもボケるしつっこむしアホなことも出来る気がした。お前は笑ってくれるよな?いつもいつも。


でも、白石と一緒におる時のお前はどんな顔をするんやろ。どんな笑顔をするんや?俺が笑かす時と同じか?それとももっと違う笑顔をするんか?どんな悦ぶ顔をする?


俺には一生見られへん。
お前は俺を選ばんやろ。
でも俺はお前を笑かす。


せめて、同じ空間にいられるこの残り僅かな時間であっても。学校生活という僅かな時間であったとしても。




お前が笑ってくれれば俺の世界は救われるんや...






矛盾する
(報われない…でも救われる)



20100826