short | ナノ
気付いたら朝になっていた。
見慣れない天井をぼんやり眺め、そして横に寝ている千歳を見て今の状況をやっと理解出来た。
昨日飲みに行った後、千歳に誘われて家に来て…そういう関係になったんだ。
一夜限りの関係。
そういうことなのかもしれない。もちろん無理矢理でなく、お互いの了解を得ての結果…。
…―抱いてもよか?
そう囁く千歳が今でも鮮明に思い出せる。
軽い気持ちで家に行ったのがいけなかったのか…。いや、もしかしたらこういう関係を望んでいたのかもしれない。
前から彼が好きだった。
しかし放浪人・自由人、いつもふわふわしてる彼は掴み所がわからない。その上何を考えているのかもわからない。
ただ、その容姿からは想像出来ないほど母性本能を擽る彼に…私は恋をしたのだ。普段から何枚も上を行く、そんな彼は恐らくとても賢い人だ。
だからかもしれない。 私は恋人なんて位置にいくことは出来ない。せめて千歳に一度でも心を……いや、体だけでも近付けたら…。そんな不純なる気持ちを抱いていたのだ。
(もう、帰らなきゃ…)
千歳が起きる前に帰らないと…そうしなくちゃ私は駄目になる気がした。このまま余韻に浸れば彼女になった気分になってしまう。
そっとベッドから出て、服を来て持っていた鞄を肩にかけた。昨日コンビニで買ったスキンケアセットも…持って帰ろう。もう来ることもないであろう。
そう思い鞄に詰め込んだその瞬間、後ろから温かいものが私を包み込んだ。
「もう帰るとね?」
後ろを振り向けば、寝起きで目がトロンとしてる千歳が私を抱きしめている。
「…うん、もう電車も動いていると思うから…」
「もう少しゆっくりしていけばよかと。あまり寝てなか」
「でも、…帰らなきゃ」
そう話すと何故か無性に哀しくなった。泣きたくなった。まだ一緒にいたい気持ちと、これ以上ここに居てはいけない気持ちが入り混じって醜い色になった。
「化粧水とかは置いてってよか。次来た時に使いなっせ」
「…また、来るの?」
「?」
「今日だけじゃ、ないの?」
「何言ってるたい。彼女ならまた泊まりに来るもんじゃなか?それとも俺ん家じゃ嫌とね?」
「…えっ、…?」
「どうしたっちゃ?」
「わ、私…彼女なの?」
そう聞くと千歳は一瞬目を丸くさせ、「彼女ったい。何言ってるとね?」と優しい顔をして私の頭を撫でた。
「一夜限りじゃ…ないの?」
「違うったい。そげんこと何で言うとね」
「だって、私たち…、」
そう話してる最中、千歳は私の頭から頬に手を移動させ、真剣な表情で私を見つめた。
「ひなのこと好いとうよ…付き合ってください…」
「っ…!」
「…返事は?」
「…っ、はい…」
「言ったつもりになってたばい…不安にさせたとね?」
「……っ順番違うよ」
「すまんったい。…だからもう少し一緒に寝よっちゃ?」
千歳に引っ張られベッドに倒れ込む私たち。暫く見つめ合うと、優しいキスが降ってきた。
ここでキスして。
20100724
|