short | ナノ



好きだとか嫌いだとか、そういうことじゃない。私が欲しいのはそんな言葉じゃなくて、そんな気持ちじゃない。もっと乱暴でがさつな、そして人間らしい生と性とのぶつかり合う音だったり匂いがほしい。


そんな姿に魅力されたい。
わたしも、あなたも。


もともとあなたの考えていることなんてわからなかった。友人といるあなたはいつも笑ってちょっと女の子と距離を置く、ごく普通の男の子だった。くだらないことを話して笑っているあなたは楽しそうで、でもそれでいて周囲とは一定の距離を保っていた。


ひとりで窓辺に座り外を眺めるあなたが一番素敵に見えた。何処か冷めた眼で気怠そうに頬をつく姿が猛烈に魅力的だった。友人に囲まれるあなたよりも、ひとり孤独に、だけど気品漂う孤高なあなたに心を奪われた。



愛してるだとか、好きだとか


そんな言葉はいらないよ。



「やったらお前は俺に何を望むんや?」


難しい質問に聞こえるけど、答えはとてもシンプルなもの。あなたの好きなようにしていいよ。あなたの好きなように私はされたい。眺めて、縛って、罵って、時に厳しい言葉…時に優しい手と体温を感じたい。何処か私にも距離を、壁を作るあなた。今はそれでもいいよ。いつかその壁をあなたが壊すから。そのように仕向けるから。


「ユウジは私にどうされたい?私をどうしたい?」

「質問に質問で返すなやボケ」

「うん。そう、そんなユウジが好きだよ」


目を細めながら見下ろすその姿がたまらなくイイ。残念のような、哀れんでるみたいに私を見つめるその顔にギュッと疼く。何だかそんな風に言うとあれだけど、別に変態とかじゃない。ただあなたの存在感が大きくて、重圧で、それでいて色があるから吸い寄せられるの。


「なんやそれ…、お前ってほんまわからんわ」

「ユウジもわからないよ」

「アァ?そりゃお前なんぞに俺の繊細かつ複雑な思考回路をわかるわけないやん」

「うん。だから魅力的」


そう答えるとあなたは更に顔を歪ませた。時計の秒針、無造作な音、吐息…まるでこの二人だけの空間が世界の全てみたいな錯覚に陥る。あなたとならばこの白く、時に黒く、様々な色に染まる空間にふたりぼっちになりたいな。


肩から衣類がゆっくりと音を立てて落ちた。ふと前を見るとあなたの顔があり、ゆっくりと肩に手を置かれた。


「お前のちっぽけなその頭で考えろ。俺はお前に何を望んでると思う?」


カチ、一際大きく時計の針が時を刻んだ。ほのかに香る煙草とあなたの体臭で再び身体が疼く。細い目をしながら私の解答を待つあなた。望んでること…もの…、それはつまり私とあなたとの価値観の相違?さっきみたいな抽象的な答えではなく、もっと具体的な答えを欲しているのね?だったら私にはひとつしか浮かばない。



「私は、ユウジとの遺伝子を残したい」



モラルとか正義とかはわからない。でも、私の本能がそう囁いている。ひと時の快楽とかじゃなくて、もっと根本的なところで、わたしはあなたの遺伝子がほしい。あなたとわたしの遺伝子を組み合わせたい。ぐちゃぐちゃに交わって、もっと深く深く繋がりたい。


あなたにとって、わたしにとって。それが望みであれば、それは愛してるだとか好きだとか…そんな言葉なんか陳腐なものになってしまう。そんな言葉よりも何倍も何十倍も、わたしを興奮させる。



「……それ、ええな」



口元に手を当てながらそう艶美に笑うあなた。次の瞬間、背中にベッドの感触とスプリングの音が空間を包み込む。ゆっくりとあなたがわたしに跨がれば、あとはもう墜ちるだけ。




ブラックホール


20110921