short | ナノ
今日は特別暑い日だった。 朝起きたら体はベタベタしていたし、カーテンを開ければこれみよがしに太陽が燦燦と輝いていた。トーストをかじりながらニュースを見ていたらお天気お姉さんが「今日は真夏日になるでしょう」と短いスカートを履きながら話していた。あれ絶対顔で採用しているよね、絶対そうだ。
バイト先である近くのファミレスに行けば部活終わりの中学生や高校生が沢山来て面倒だった。夏休みだもんなあ〜、そりゃいっぱい来るわけだ。愛想笑いで接客をすれば「あれ絶対Cはあるって!もしかしたらDかもしれんで!」と、コソコソ話しが聞こえた。ジロジロと見られてると思えば胸かよ、全くこれだから思春期の男の子は嫌だ嫌だ。まあエロ親父に見られるよりかは幾分可愛らしいかな。
忙しなく働けばあっという間に上がりの時間になり、少しメイクを直してから蔵ノ介の家へと向かった。蔵ノ介は大学から近い場所で一人暮らしを始め、こうやってお邪魔するのが日課になっていた。もう夕暮れだというのに外は相変わらず暑くて少し歩いただけで汗が次から次へと出てきた。こりゃメイク直したのに意味ないな。
「ただいま」
「おかえり。今日もバイトご苦労さん」
さも当たり前のようにおかえり、と言ってくれる。こんな小さな幸せが好き。蔵ノ介はTシャツにジーンズというラフな格好で、何やら分厚い参考書と睨めっこをしていた。さすが薬科大、わけの分からない言葉がずらずらと書いてある。これって本当に日本語なのか?
鞄を適当に置いてソファーに寝転ぶ。蔵ノ介の「こら、ちゃんと手洗いうがいしなあかんやろ?」という声が聞こえるが無視。ちゃんと後でやるよ〜、でももう少し横にならせてくださいよ。部屋に入れば涼しいはずが何だか少し暑い気がする。チラッとエアコンを見れば作動していなく、ベッドの横にある扇風機が作動していた。
「ねえ、暑くない?」
「暑いなあ。今日真夏日やったもんなあ」
「じゃなくて今。なんでクーラー付けないの?」
「エコやエコ。ほら、節電しようって言ってはるやん」
テレビを指差しながらそう話す蔵ノ介。のそっと上半身を起こしてテレビを見れば節電のCMがやっていた。あー、確かに蔵ノ介ってエコとか節電とか好きそうだもんね。
「うーん、でも暑い。私はいまクーラーを欲しています」
「あかん。扇風機でも十分涼しいやん」
「そりゃ扇風機の真ん前にいる蔵ノ介は涼しいよ。でも私は非常に暑いです」
「こっち来たらええやん」
「…扇風機こっちに持って来たらだめ?」
「だーめ」
そんなやり取りをして、結局私は蔵ノ介の横に行く嵌めになった。まあもともと彼には普段から勝てませんがね。いっつも言いくるめられて負けっぱなしですよ!
暫くして蔵ノ介が作っててくれた夕飯を食べてお風呂に入り、缶ビール片手に夜のニュースを一緒に見ていた。今週の天気予報になると晴れマークばっかりで少し気が滅入っていたら「今夜は熱帯夜になるでしょう」と、アナウンサーが言った。
「熱帯夜だって。そりゃ暑いわけだ。てことでクーラー付けようよ!」
「エコです、節電です」
「蔵、クーラー!」
「…つまらんから尚更付けません」
「ケチ!」
お風呂に入ったばかりだというのに、じんわりとまた汗が滲んできた。何だかベタベタしてきてる気もするし、何よりも暑い!頑固してクーラーを付けない蔵ノ介を見ればうっすらと汗が浮かんでおり、首には髪の毛が少しだけ張り付いていた。なんだ、自分だって汗掻いてるじゃん暑いんじゃん!
水に滴るいい男… みたいな何だろう。うっすらと汗を浮かべる蔵ノ介は何故か無性に色っぽく見える。じんわりと肌に張り付く髪の毛、洋服。少し気怠そうに目を細めながらテレビを見る姿。ちらっと見える鎖骨や腕の筋肉に血管…全てが全て色っぽく、そして官能的に見える。暑さのせいか次第に脳内が蕩けていき、沸々と情欲が駆り立てられていくのを感じた。
「なあ、夏になるとチゲ鍋とか熱くて辛いモン食べたならへん?」
「唐突だねぇ。うーん…確かに食べてる人見かけるけどその気持ちは分かんないなぁ」
「冬場になるとアイス食べたくなるみたいな感じで」
「そう言えば冬場よく蔵ノ介食べてたね」
「多分な、その時の気温やったり環境を覆したいねん。いや、むしろ楽しみたいんかな?」
覆したい…楽しみたい…? 一体何の話をしたいんだろうか。チゲ鍋が食べたいのかな、こんなに暑いのに!
「暑い時に熱いモノ食べるって自分の限界に挑戦してる気分になんねん」
「蔵ノ介って…ドM?」
「やと思う?散々いっつも俺に泣かされてるん何処の誰やったかなあ?」
「……で、なんの話をしたいの?」
「今日は熱帯夜やんなあ。今からもっとアツイことしいひん?」
そう話すと私の頬に手を添えながらニヤッと悪戯に蔵ノ介は笑った。あついこと…暑いこと…熱いこと…?! ハッと気付いたが既に時は遅し。その場に倒されて覆いかぶさるように蔵ノ介が私の上へと登ってきた。
「さっかからめっちゃアツイ視線感じてたねん。自分じゃ気付いてへんたやろけどお前の顔めっちゃエロかったで?」
「っ、!」
「ええ感じにうっすらと汗浮かべて…顔も赤いし身体も熱い。今のお前色っぽいわ…、」
耳元で囁くように話す蔵ノ介の声に全身が痺れてより一層熱が増す。いつの間にかテレビは消されていて、時計の針と扇風機の機械音が部屋を駆け巡る。耳から蔵ノ介の顔が離れるとばっちりと視線が交わった。見下すように、そして悪戯に微笑む蔵ノ介。それは何処か美しいオトコの姿。 ああ、今日は暑く熱くなりそうだ。
だってこれは真昼に見るゆめ (だから夜に確かめ合うの)
『夏色グラフィティ』様に提出。
20110801
|