short | ナノ
ああ…降ってきた。
暑さはそのままで空からはぽつぽつと雨が落ちてきた。夏特有の夕立かな。彼との待ち合わせ時間はまだ余裕あるし、暫くここで待っておこう。辺りを見渡すと私と同じように駅前には雨が止むのを待っている人がちらほらといた。
「先輩…?」
真後ろから声が聞こえ振り返ると、同じ部活だった財前君が立っていた。
「財前君…久しぶりだね!」 「ほんま久しぶりっすわ。今何してるんすか?」 「大学生だよ。財前君は?」 「俺も大学生っす。…なんていうか全然変わってないですね」
ふっと笑う顔を見れば、昔の幼い顔立ちが垣間見れて懐かしい気持ちになった。最後に会ったのは何時だっただろう…。財前君は表情も雰囲気も大人になって、背もぐんと高くなっていた。声も、昔より少し低くなって…温かい優しい声になっていた。
「ちょっとは変わったよ?失礼だなあ〜。…財前君は変わったね。大人になってる」 「まあね。昔より男前になってるでしょ?」 「…生意気な所は相変わらずだね」 「性格なんてそんな劇的に変わりませんわ」
財前君は中学時代の後輩で私はテニス部のマネージャーだった。毎日が楽しくって楽しくって…みんなのこと大好きだったなあ。 高校でみんなバラバラになり、会う機会はめっきりと減っていた。特にひとつ下の財前君とは本当に会う機会なんてなくて、連絡先すらわからない存在だった。
「雨宿り?」 「そうだよ。財前君も?」 「まあ、そんなとこ。せっかくやしどっかで喋りませんか?」 「ごめん、今から待ち合わせしてて…時間ないんだ」 「そうですか…」
あ…雨上がった。
雨が去った代わりに少し赤みがかった夕焼けが空に広がっていた。雨宿りしていた人達は一斉にあちらこちらへ歩みだし、財前君はぼんやりと夕焼けを眺めていた。
久々に会った財前君。 中学時代…少しだけ恋心を抱いていた。年下だけど大人びた雰囲気が大好きだった。先輩、と呼んでくれるあの声が大好きだった。少し意地悪な彼が大好きだった。
財前君…。 もうすっかり大人になったんだね。少年のような眼差しも今では大人の男になっているよ。そっかあ…それだけ時間は経ったんだなあ。
「雨止みましたね」 「そうだね…じゃあ、私行くね」 「来週のこの時間は空いてますか?」 「…?、うん」 「じゃあ来週ここで会いましょうよ。待ってますよ、ひなさん」
そう話すと私の頭をくしゃくしゃと撫でる財前君。せっかくセットしたのに…っと文句を言うものの、心臓はバクバクと鳴り響く。そんな私を見て財前君は笑顔を残して去って行った。
駄目だよ、そんな顔しないでよ。昔みたいに頭を撫でたりしないでよ。そんな優しい目で、私を見ないで…。
「ひな?どうたん、さっきから上の空やで」 「え…、ああごめん!」 「なんかあったんか?」 「中学時代の後輩に久々に会って…ちょっと嬉しかったの」 「…可愛くなってた?」 「へ?」 「なに、もしかして会ったん男やったんか?」
彼氏がそう試すように私に告げる。別に男だよ、って答えてもいいのに。何処か墓穴を掘りそうで…触れてほしくなくて…言いたくなくって…、
「まさか、女の子だよ。そうだなあ…美人になってたよ」
ごまかすように笑って適当に話題を変えた。ごめん、私は財前君のことを……。
優しい雨と夕暮れ (思い出は思い出のままで、心までも過去にするの…?)
20110713
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